麦の海に沈む果実

著者 :
  • 講談社 (2000年7月25日発売)
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5

『麦の海に沈む果実』
わたしが少女であったころ、
わたしたちは灰色の海に浮かぶ果実だった。

わたしが少年であったころ、
わたしたちは幕間のような暗い波間に声もなく漂っていた。

開かれた窓には、雲と地平線のあいだのはしごを登っていくわたしたちが見える。
麦の海に溺れるわたしたちの魂が。

海より帰りて船人は、
再び陸で時の花びらに沈む。

海より帰りて船人は、
再び宙で時の花びらを散らす。


三月から始まる三月の王国へ、二月の終わりに転校生がやってきた。
破滅をもたらす「二月の転校生の伝説」に戸惑う彼女の名前は、理瀬。
「この三月の国の趣旨に添わない生徒は、いつのまにかいなくなる」
王国の王である校長の「お茶会」に、ファミリーの憂理、黎二、聖と共に招かれた理瀬は
かつてのファミリー・麗子の生死を確かめるため降霊術を行う。
学園の諸所に現れる麗子の影。そして次々と起きる"不慮の死亡事故"に、
天使のような容貌を持つヨハンとファミリー達は校長への不信感を募らせる。
王国での様々な出来事に心を塞ぎこんだ理瀬は、ハロウィンパーティの最中
校長から「黒い紅茶」を受け取る。

はあ。早くも終わってしまった!
レビューを残すにあたり何もかもを省きたくない、エレガントな小説でした。
幻想的な世界を脳内に描画させてくれる点において、恩田陸は
稀代の作家なのではないかと思わせてくれる作品。
既視感の描写ってあまり好きじゃないんだけど
(ほらほら気になるだろ?伏線ですよー☆彡って感じがして)
これは気にならなかった。鮮やかに締めてくれた。
理瀬も、脇を固めるファミリー達もそれぞれいい味を出していて
みんな愛おしい。
学園のイメージもモンサンミッシェルを想起させるようで好き。
ネクロポリスといい恩田さんはモンサンミッシェルの雰囲気好きなんじゃないか。
結論として、当然のように長くなるブックレビュー。名作です。
師走に良い本に出会えて良かった。

「『三月は深き紅の淵を』というのよ。赤い表紙で、ちょっと小さめのサイズ。作者名は書かれていないわ」

「―思い出したんだね?」
「ええ、パパ。何もかも」


指の隙間から、灰色の湿原に、水色の花吹雪が散ってゆく。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2011年12月15日
読了日 : 2011年12月15日
本棚登録日 : 2011年12月15日

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