森淳一監督•脚本、五十嵐大介原作、2014年作。橋本愛、三浦貴大、松岡茉優、温水洋一、桐島かれん出演。
<コメント>
•間違えて「冬•春」から見てしまったが、こちらの「夏•秋」のほうがよくできているようにおもう。
•たとえば、グミのジャム作りのシーン。全てに迷い、自分らしくなかった街での暮らしを暗示する描写になっている。
グミの木から落ちて腐っている実に、自分を投影するいち子。
「そんなの寂しいよな」と呟いてジャムにすることを思いたつ。煮詰めながら、
「あくとったらグミらしくなくなるかな」
「やっぱり砂糖足そうか」と言って砂糖の容器をとるが、足さずにそのまま戻す。
何もかも決めないうちに煮詰まってきてしまった。
焦げるのが怖さにかき混ぜすぎるとジャムが濁る。瓶詰めにしたジャムの瓶を眺めながら「これが今の私の心の色…か」。
翌朝、試味すると濃厚で少し渋みがある酸味の強いジャムだった。
街での話は、映画中でほぼ触れられていない(きっこのおばあちゃんに、街で世話になった人はいないと言う程度)が、迷いながら、自分を出さずに暮らしたことを後悔しつつ、今の自分をそれなりに認めている様子がわかる。
•集落の人たちのつながりに癒される。
キャンプ場のシゲユキから栗の渋皮煮が広まり、それぞれ工夫して作った渋皮煮をそれぞれにおすそ分けする。
・近所のおばさんたちの何気ない会話も癒される。
いち子宅での茶会の後、玄関先の薪を見つけて「あら、これだけ薪があったら安心だね」
干し柿を見ながら「あら、柿美味しそう」
階段を降りながら「足もと気をつけてね」
繰り返される何気ない日常のなかにこそ、幸せはあるのだな。
•細かい描写もいい。
いち子宅からおばさんたちが帰った後の空気を埋めようと、猫を呼びにくるいち子。でも猫は隠れて応じない。いち子の心理も、マイペースな猫も上手く描かれていて秀逸。
<あらすじ(ネタバレ)>
夏
主人公のいち子(橋本)は、小さなスーパーまで徒歩で1時間半の集落・小森で1人で暮らしているというナレーション。夏〜春まで共通。共通だと気づかないと、同じ編が始まったかと錯覚する。
1st dish パンを焼く
湿気の多い夏の小森、ジャム用のヘラにカビが生えたため、湿気対策として点火した薪ストーブでパンを焼く。
2nd dish 自家製の米サワー
まず甘酒をつくる。おかゆに麹を混ぜて常温放置で一晩。発酵の菌、イーストを入れ、半日で飲める。サラシで濾し、冷蔵庫で冷やす。
3rd dish グミジャム
家の脇のグミに実がなっていることで、街で暮らしたことを思い出す。街では男と暮らしていた。時に、道端のグミの実を2人で取ったこともあった。彼とダメになり小森に戻った。同じ季節、グミの木にたくさんの実がなり地面に落ちて腐る。みんな無駄だった…。「そんなの寂しいよな」、ジャムにしてみよう。果肉をざるで濾し、60%の砂糖を入れてみる。あまり甘くしたくなかった。煮詰める。「あくとったらグミらしくなくなるかな」「やっぱり砂糖足そうか」と言って砂糖の容器をとって、そのまま戻す。何もかも決めないうちに煮詰まってきてしまった(街に出たことの暗喩)。焦げるのが怖さにかき混ぜすぎるとジャムが濁る。料理は心を映す鏡と母は言ってた。瓶詰めにしたジャムの瓶を眺めながら「これが今の私の心の色…か」。翌朝、試味すると濃厚で少し渋みがある酸味の強いジャムだった。その街の思い出を感じさせるかのような味。
4th dish ウスターソースとヌテラ
醤油ベースに人参、生姜、唐辛子、セロリの葉を刻み、だし昆布、クローブ、粒胡椒、青山椒のみりん漬け、月桂樹の葉、タイム、セージ、切った野菜を入れて中火で半分に煮詰め、醤油、酢、みりん、ザラメで1時間煮、サラシで濾して瓶詰め。自家製ウスターソース。このソースでないと物足りない。
秋になると山にハシバミの実を取りに行き、ローストして滑らかになるまですりつぶす。鍋でココアパウダーと砂糖、少しの油と合わせて艶良く練り上げる。ヌテラ。パンにつけて食べると美味しい。母が言うには「塗って食べる」が訛ってそう名付けられたと言うが、いち子はある日スーパーでnutellaを見つけて愕然とする。
ウスターソースもヌテラも、いち子はそれらが市販されてるとは知らず、そこから言葉よりも体が感じたことを信じ、何でも自分でやってみないと気がすまない気性の持ち主になった。
5th dish ミズとろろ
沢にはミズがたくさん生える。たまに本流からイワナも上がってくる。サワガニもいる。
ミズは秋まで食べられる。皮をむいて少し湯がいて食べる。根元を包丁で叩いて粘り気を出したのがミズとろろ。味噌と三杯酢で混ぜて熱いご飯にのせて食べるとすすむ。
6th dish イワナの塩焼きと味噌汁
いち子は養魚場のイワナをキャンプ場に移す日雇いをし、ゆう太と一緒になった。キャンプ場のシゲユキ(温水)からイワナの焼き魚と味噌汁を御馳走になる。ゆう太は都会の人への嫌悪から自分と向き合うために戻ってきたが、いち子は自分が逃げてきたのだと責める。
7th dish トマト煮
トマトは強い。捨てたヘタや間引きして捨てた脇枝からも根を張る。が、湿気には弱く、長雨では枯れるため、小森の農家ではビニールハウスで栽培する。しかしいち子をハウスが小森に居つかせることが怖くていち子のトマトは露地栽培。
ミニトマトを湯むきして水煮。塩水につけて煮沸消毒して保存。冬はカレーやスパゲティに。そのまま食べても美味しい。
秋。
1st dish アケビの皮のサブジ風炒め物
田んぼへの道すがら、子供の頃と同じくきっことアケビを取り、縁側で一緒に食べる。きっこと違い研究家のいち子は、アケビを、上品な甘み、和菓子が目指している味だと。さらにその皮の苦味を活かすにはどうするか。フライパンで、クミン、ニンニク、ネギ、カレー粉、トマト、一口大に切ったアケビの皮。醤油と炒め合わせてサブジ風の炒め物にする。
味噌で味付けをしたひき肉を、アケビの皮に詰めて揚げる。
2nd dish くるみご飯
稲刈りの時期のお弁当はくるみの炊き込みご飯のおにぎり。
くるみを拾って庭に埋め、皮が黒く腐ったら洗い、干して網に入れて貯蔵。殻割りシーンで画面を縦に三分割して繰り返し感を演出。すり鉢ですりつぶしてペーストに。洗ったコメに混ぜて、酒と醤油で味付ける。米10、くるみ2-3、醤油1弱、酒少々。
3rd dish イワナの南蛮漬け
内臓をとって洗う。だし、酢、砂糖、醤油、鷹の爪を煮立てタレを作る。イワナに小麦粉をまぶし、揚げ、タレにつける(ニンジン千切りの指示がない)。
4th dish 栗の渋皮煮
キャンプ場のシゲユキが起点になって、集落の人々の間では栗の渋皮煮がはやる。むいた栗を梅か重そうに一晩つけ、弱火で30分、繰り返すと煮汁がワイン色に。60%の砂糖で煮詰めて、火を止める前に隠し味。醤油、赤ワイン、ブランデー。2、3ヵ月後の滲みた感じがいい。
いち子、チェーンソーのメンテまでやるんだなあ。
5th dish 干し芋
近所の主婦がいち子の家に集まり、お茶会。サツマイモやサトイモのとれ具合の話題になる。
サツマイモは保存がきかないので干し芋にする。
6th dish 鴨のソテー
水田で6月に放した合鴨農法のカモたち。稲に付く虫や雑草を食べ、泳ぎ回ることで稲に酸素を送り、水が濁ることで日光をさえぎり雑草が生えにくい。ふんが肥料にもなる。可愛くて食べたくないけど秋には解体して料理して食べる(鴨の調理は省略。鴨、脂っこくて食べないから。ただ、ちゃんと食べてやるのが愛情)。
7th dish 青菜の炒め物
料理しながらいち子は、母が間引きを面倒がってるのに、雑草をほったらかしにしたほうが香りがたつ野菜ができるとずぼらを正当化しているだけと思っていた。
しかし青菜のソテーを作っても筋っぽい。セロリの筋取りをしていて気づいた。青菜も筋をとったら美味しく、自分の方がズボラだったことに気づく。
母に文句を言っていたことを今さら思い返すいち子。
霜が降りるころのある日、いつもは公共料金の請求しか配達しない郵便屋が母からの手紙が届けるところで幕。
- 感想投稿日 : 2017年9月9日
- 読了日 : 2017年9月8日
- 本棚登録日 : 2017年9月8日
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