無関係な死・時の崖 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1974年5月28日発売)
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感想 : 110
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安部公房のSFじみた短編小説群。純文学然とした冒頭作品で油断したが、2本目からは本領発揮の幻想なのかミステリなのかという話が続く。

帰宅し、アパートのドアを開けたら、見ず知らずの男の死体が転がっている。さてどうするか。警察に届けたら、自分が犯人にされてしまう。アパートの他の住人に押し付けるには、死体を運ばなくてはならぬ…(無関係な死)。

いやいや、油断した。2本目「誘惑者」で気づくべきだったのだ。安部公房じゃないか。死体が有っても犯人など出てこないし、3階から階段を降りたら4階に着くのだ。比喩をこねくり回したり、理屈をまぜっかえしたりなど不要。これぞ安部公房という短編である。

「使者」は名作「人間そっくり」の初期プロットなのであろうし、「賭」は「密会」をコメディにしたような作品である。中でも「人魚伝」は完全なるSFであり、メカニズムまで作り込まれている点は、そんじょそこらの中途半端なSF作品より出来が良い。

読んでいて、つげ義春や諸星大二郎、高橋葉介などの作品を思い浮かべる人もいるかも知れない。逆に、そういう作品が好きな人は必読の1冊である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF
感想投稿日 : 2019年1月30日
読了日 : 2019年1月30日
本棚登録日 : 2019年1月30日

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