なんかほんわかした長編小説かと思ったら、殺伐とした短編アンソロジーだったという本。
新潟の山あいにある「民宿雪国」。そこを訪ねた男は、民宿に身を潜めていたヤクザの人質となってしまう。警察が訪れるのを待つが、実は警らの警官も人質となり、銃まで奪われてしまう。あとは死を待つしかないのか…。
ほら、タイトルで予想したのと違う展開。
で、また短編内でのどんでん返しが有り、本書の後半であり、主となる「丹生雄武郎正伝」でまた全てがひっくり返る、ダイナミックな作品展開となっている。
いや、プロットは面白い。小説として一旦作っておいたものを、それをメタ視点から眺められるようにして、過去からすべてを定義し直すという作風は斬新である。
作風はそうなのだが、序盤の短編がいまいちだったので、短編部分を大幅に削るか、無理やり後半部分に埋め込んで、ひとつづきにしたほうが良かったのではないかと思う。短編の小説部分に関しては、人物の視点切り替えが下手なので、誰がどうしたを見極められず、また情景が全く浮かんでこないというのは、普通の小説に向いてないんじゃないかと思う。「正伝」部分は視点が動かなかったので良かったが、少々話を盛りすぎてやり過ぎた感はある。どうせなら「山下清の遺稿を小出しに売っていた」くらい小物のほうが、他の部分とのバランスは取れただろう。
さらに、引っかかってしまったのが1点。それは、そっちに触れてほしくないなというか、現実の人物(坂本龍一、安部公房、麻……)と絡めてほしくなかった。それらを入れることで、ふざけた小説の部分ができてしまった。架空は架空のままにしてほしいし、実在の人物名が出てきた瞬間に冷めてしまう。
最後のインタビューも、お互いに「あなたすごいね」を書いているだけで蛇足感しかなかった。
うん、まあ、佳作になりきらなかったかな?というもの。「タモリ論」の人なのか。ひょっとしたら、知ってる人だったりしてね。
- 感想投稿日 : 2019年6月4日
- 読了日 : 2019年6月4日
- 本棚登録日 : 2019年6月4日
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