オーデュボンの祈り (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2003年11月28日発売)
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小説を読む醍醐味のひとつには、自分では想像もつかない世界を体験できること・・・ってのがあると思います。
例えばこの荻島のような荒唐無稽な世界。江戸以来外界から遮断している島。未来が見える人語を操るカカシ、優午。島の法律として殺人が許された男、桜。嘘しか言わない画家、園山。そこに連れてこられたコンビニ強盗に失敗して逃走していた、いつも逃げてばかりの伊藤。などなど、こんな人物たちが現実世界に現れることはないでしょう。まぁ、コンビニ強盗とか殺人者とかいることにはいるけれど、普通は自分がなりたいとは思わないし、出来たら関わりたくないです。

そんな島で殺人事件がおきます。被害者はバラバラにされたカカシ。
それから起きるリアリティのない日常は、わたしの頭では全然思いもつかない出来事で溢れてます。非日常的空間を伊藤とともに文字で浮かび上がった小説という形で味わったとき、読者のわたしの中では、そこはリアリティのある世界にかわってしまいます。まるで自分が体験しているような。
物語の中では、目を背けたくなる描写もあるし人も死んじゃうし、楽しいことだけではないけれど、それを文字を通して経験することで、わたしの中で想像力、理性や感情が育っていく気がします。こんな世界は本の中でしか体験出来ないことだから。フィクションにしろノンフィクションにしろ、本を読まないことはモッタナイナなぁと思ってしまうところはそんなとこです。

逃げてばかりの伊藤だったけど、この島で彼はいろんなことを体験して考えて、そして最後にどこに向かうか決断します。
逃げることは何だか弱いことや悪いことに思ってしまうところがあります。引け目を感じたり、自分を責めたり、逆に周囲の人たちを恨んだりしてしまうこともあると思います。
でも、逃げることも時には必要だし、あってもいいじゃないかと読み終えたとき思えました。
その先にいろいろ経験して考えて、そしてまた一歩踏み出す勇気が蓄えられたら。
ちょっぴりでもそんな気持ちにさせてくれるのに、小説の力を借りることもアリですよね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学:著者あ行
感想投稿日 : 2017年9月23日
読了日 : 2017年9月23日
本棚登録日 : 2017年9月23日

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