この名探偵の謎解きは、なんでこんなにヒリヒリと焼き付くように胸が痛くなるのだろう。
彼はわかっている。
誰が犯人だったとしてもみんなが傷つくことを。みんな傷つくことでしか事件の結末がないことを。それは「クローズド・サークル」ものの宿命なんだろうか。
それでも探偵は答えを出さなくてはいけない。
罪を犯したものはけっして罪から逃れることはできないから。だからこそ、謎を解き明かすことによって犯人とその周囲の人々は、彼らにしかわからない怒りや哀しみ、恐怖から救われることとなる。結果、探偵自身が苦悩に苛まれることとなっても、それが謎を解き明かす者に与えられた業なのだと探偵は粛々と受け入れるのだろう。
探偵は犯人に言う。「あなたは自分が犯人であると絶対に悟られてはならなかった」「私が紙よりも薄っぺらな理屈を並べてみせるのを片っ端から否定し、笑い飛ばさなくてはならなかった」と。その意外な言葉に、犯人だけでなく私も探偵に落ちてしまった。
名探偵、江神二郎。私にとって、彼こそが一番の魅惑的な謎である。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
日本文学:著者あ行
- 感想投稿日 : 2019年5月4日
- 読了日 : 2019年5月4日
- 本棚登録日 : 2019年5月4日
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