流転の海 第5部 花の回廊 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2009年12月24日発売)
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5

この物語は、
なぜこんなにも惹きつけて止まないのか…

一部・二部の頃の、房江に向けたクソのような暴力には、嫌悪感しか覚えなかったけれど…。

陰と陽。
正と負。
相反する両極の性質を内包する、
人間というもの…

主人公・熊吾の卓越した洞察力。
そして、年齢・性別・国籍・身分を問わず自分間違いは素直に認める公平性(feirness)。

その底に棲む禍々しい暴力性。


房江の優しさと慈愛、
次々に襲いかかる災厄に負けない強さと時折のぞくお茶目な一面。
一方で、彼女の人生に、べったりと張り付て離れない不安(不幸)の陰。


伸仁の脆弱な身体に宿る、
しなやかな強さを持つ心。

そんな、大きな矛盾を抱えた人間の生き様に、感動と共感を得ずにいられない。




久保敏松の裏切りにより一文無しとなった熊吾は、伸仁を富山に残し房江と共に大阪へ戻るが、結局一人の寂しさに根を上げた伸仁を迎えに行く事に。

熊吾と房江は電気も水道も通っていない船津橋のビルに住んでおり、二人共深夜まで戻らない事が多い為、伸仁は尼崎の蘭月ビルという長屋に住む妹のタネに預ける事となる。

中古車のエアー・ブローカーで糊口を凌ぐ熊吾は、旧知の柳田元雄に出資させ、福島西にある女学院の移転に伴う千二百坪の跡地を使って巨大なモータープールを作る計画に邁進する。

一方房江は、大阪灘波宗右衛門町の小料理屋「お染」で働き、底意地が悪く嫉妬深い店主・田嶋カツ代の嫌がらせに耐えながら得意の料理によって顧客の心を掴んで行くが、偶然来店した、新町の「まち川」時代の売れっ子芸者・千代鶴(島津育代)との再会以後、育代から執拗な嫌がらせに遭う。

そして…
貧乏人の巣窟であり、
社会的規範の外に生きる者や、祖国が南北に分かれ反目し合う朝鮮人達の巣食う蘭月ビルで、逞しくしたたかに育ってゆく伸仁。

そんな中でも、
音吉の尽力で熊吾の母の消息(死亡)が判明し、千代麿が愛人に産ませ、浦辺ヨネ(わうどうの伊佐男の子を産んだ愛人)に預けていた娘・美恵を、ヨネの死亡により引きとる事になったり、
また、かつて井草が持ち逃げした金五十万が海老原太一へと渡っていた証拠の名刺が見つかったりと周りも慌ただしい。

やがて、
ついに土地の買収に成功した熊吾は、柳田の下での期限付き運営責任者としてながらモータープールの経営に本腰を入れる。
そして、房江も「お染」を辞め伸仁も戻り、松坂一家は管理人としてモータープールの一角に住み込む。

事業の順調な滑り出し、そして、蘭月ビルの住人・ヤカンのホンギの結んだ縁によって再会した亀井周一郎が熊吾の再起への助力を約束し、漸く明るい兆しが…

だが、
蘭月ビルで出会った絶世の美少女・津久田咲子の存在は、どの様な禍いをもたらすのか…

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感想投稿日 : 2023年5月6日
本棚登録日 : 2023年4月18日

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