ナショナル ジオグラフィック日本版2022年8月号<特製付録付き>[雑誌]

制作 : ナショナル・ジオグラフィック 
  • 日経ナショナル ジオグラフィック (2012年7月30日発売)
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2012年8月号の目次
イースト・ロンドン物語

五輪に沸く英国の首都では、移民や低所得者が多く暮らす下町、イースト・ロンドンにも新しい時代の波が押し寄せている。

文=キャシー・ニューマン 写真=アレックス・ウェッブ

 2012年夏季オリンピック開催に沸く英国の首都、ロンドン。その東側には、華やかな大都市のイメージとは対照的な「イースト・ロンドン」と呼ばれる下町が広がっている。

 昔から移民や低所得者が多く住み、独自の文化を築いてきた地域だが、ここにも次第に新しい時代の波が押し寄せてきた。変わりゆく街を前に、人々は何を思うのか。
編集者から

 イースト・ロンドンの変貌にはオリンピック以外にもさまざまな背景があるのですが、昔からその土地に住んでいる人たちにとっては、いずれにしても複雑。この夏、テレビで日本チームを応援しながら、この記事のことを思い出していただければ幸いです。本文中、さまざまな通りの名前が出てきますが、私は一通りグーグルの「ストリート・ビュー」で“歩いて”みました。「なるほど、こういう所なのね」というのがわかり、楽しさ倍増。おススメです!(編集H.O)

追跡! 稲妻発生の瞬間

米国の“稲妻ハンター”が、重さ1トン近い超高速度カメラとともに、大きな雷雲を追う。狙うのは、稲妻発生の瞬間だ。

文=ジョージ・ジョンソン 写真=カーステン・ペーター

 落雷の瞬間、雷雲と大地の間では、いったい何が起きているのか。この謎を解き明かそうと執念を燃やす“稲妻ハンター”が、嵐と雷雲を追いかけて、米国中西部の大平原を走り回る。

 落雷のような一瞬の出来事をつかまえるには、それなりの備えが必要だ。そこで用意したのが、1秒間に144万コマの撮影が可能な超高速度カメラ。もともとは核爆発の様子を記録するために開発されたもので、重さ725キロ、高さが1.8メートルもある怪物マシン。はたしてこのカメラで、稲妻誕生の瞬間をとらえることができるのか。
編集者から

 今回の主役である“稲妻ハンター”のティム・サマラスは、2004年4月号「巨大竜巻トルネードの謎を探る」で竜巻を追跡していた男性と同一人物。その後転身を果たし、現在は稲妻に情熱を注いでいるようです。写真を担当したのも、以前の記事と同じカーステン・ペーター。洞窟や火山の火口など、危険な場所での撮影で知られる写真家です。稲妻の写真はもちろん大迫力ですが、落雷のプロセスに関する解説にも注目してみてください。仕組みがわかると、次の嵐が待ち遠しくなるかも!?(編集M.N)

米国先住民の苦闘と希望

サウスダコタ州に暮らすオグララ・ラコタ族。連邦政府の不当な扱いに耐えながら、たくましく生きる姿を、長期取材で見つめた。

文=アレクサンドラ・フラー 写真=アーロン・ヒューイ

 人口一人当たりの収入は全米平均の3分の1、住民の半数近くが貧困レベル以下での暮らしを送り、乳児死亡率は全米平均の3倍近くに達する――。米国サウスダコタ州パインリッジ居留地に暮らす先住民、オグララ・ラコタ族の貧困と窮状は、どこからもたらされたのか?

 現実として、連邦政府がオグララ・ラコタの聖地ブラックヒルズを不当に占有している問題がある。150年にわたり、先住民はバッファローを追いかけて草原を移動する民族本来の生き方を奪われてきた。1890年12月には、140人以上の先住民が米軍に殺害される「ウンデッド・ニーの虐殺」もあった。この虐殺事件は、彼らの心に深い傷を残した。

 そして1978年、先住民の儀式や慣行が法律で守られるようになると、オグララ・ラコタの人々は、失われつつあった伝統や言語、信仰を取り戻し始めた。それは、インディアンという誇りを力に、新しい時代を作ろうとする動きなのかもしれない。
編集者から

 筆者のアレクサンドラ・フラーは2010年6月号の「マンデラの子供たち」を執筆した作家。写真家のアーロン・ヒューイは、7年にわたってオグララ・ラコタの人々を取材し、彼らの「代弁者」になろうと決心した人物です。

 米国を舞台にした話ですが、普遍的なテーマをもったストーリーだと、私は感じました。この特集と併せて、2012年3月号の「写真は語る」で紹介した宇井眞紀子さんのフォトギャラリーもご覧いただければ幸いです。(編集T.F)

シロカツオドリの勇姿

海中の魚群をめがけて猛スピードで急降下するシロカツオドリ。長年の保護活動の甲斐あって、生息数は着実に増加中だ。

文=ジェレミー・バーリン 写真=アンドリュー・パーキンソン

 シロカツオドリの食事風景は壮観だ。上空を舞う群れの中から白い矢が降り注ぐように、一羽、また一羽と、海中の魚群をめがけて急降下していく。海面突入の瞬間、最大時速はなんと110キロ。鼻孔を閉じて、水深15メートルまで潜ることもできる。

 一時は狩猟によって数が減っていたが、ここ100年間の保護の取り組みが実を結び、生息数はみごとに回復した。今では毎年、子育ての季節になると北大西洋の繁殖地をにぎわしている。

 華麗なダイバーにして陸上では不器用者、縄張り意識が強くけんかっ早いが子煩悩なシロカツオドリ。ちょっととぼけた素顔を、英国スコットランドのシェトランド諸島から伝える。
編集者から

 急降下のかっこよさが印象的なシロカツオドリですが、陸上での姿は「着地がお粗末」「騒々しい」と、さんざんな言われよう。でも、雌が産んだ1個だけの卵を雄と雌が交互にあたため、餌も交代でとってくる子育てぶりは、心あたたまるものがあります。

 ところで、シロカツオドリのような海鳥は、繁殖期以外はずっと大海原で暮らしています。寝るときも、洋上ならぷかぷか海の上に浮かんだまま。いわば天然のウォターベッドですが、おなかが冷えたりしないかと、つい心配になってしまいます。(編集H.I)

チベット高原の“金”

古くから漢方薬として珍重されてきた菌類の一種、冬虫夏草。需要の増加に伴い、産地のチベット高原は活気づいている。

文=マイケル・フィンケル 写真=マイケル・ヤマシタ

 標高4700メートルにも達するチベット高原。山の斜面のそこかしこで、日よけ帽をかぶった村人たちが雑草や野花をかきわけ、血眼になって何かを探している。そのお目当ては、「冬虫夏草」。コウモリガ科のガの幼虫にバッカクキン科冬虫夏草属の菌類が寄生したもので、古くから漢方薬として珍重されてきた。

 近年、中国経済の急成長とともに冬虫夏草の需要が高まり、価格が高騰。産地のチベットでは、多額の現金収入が人々の暮らしを変える一方で、盗難騒ぎや暴力沙汰、乱獲による採集量減少の懸念などを引き起こしている。チベットの冬虫夏草をめぐるさまざまな動きをレポートする。
編集者から

 「この菌は幼虫の体内の養分を吸収して育ち、春になると茶色い棒状の子実体(キノコ)が、殻だけになった幼虫の頭部を突き破って生えてくる」……。想像するだけでもなんだか恐ろしいですが、実際の見た目も、はっきり言ってグロテスクな冬虫夏草。それを煎じてお茶にして飲むだけでなく、ふやけた冬虫夏草も食べてしまうそうです(煮込んだスープや、鴨肉に詰めてローストした料理もあるとか)。冬虫夏草の薬効を盲信する人々の姿は、2012年3月号「サイの悲鳴」を思い起こさせます。(編集M.N)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: NATIONAL GEOGRAPHIC 2012
感想投稿日 : 2014年11月25日
読了日 : 2012年8月25日
本棚登録日 : 2014年11月24日

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