なんて熱量の高い奇書。翻訳小説、ファンタジー小説、歴史小説、時代小説、娯楽小説といった、様々な「物語」的要素が虚実とともに渾然一体となり、凄まじいエネルギーの塊へと化けて読み手の思考を凌駕して奪ってきます。
そして迎える、予想外の結末。
ヨーロッパ世界において、フランスはナポレオンが覇権を握った時代。彼は対イギリス政策もあり、エジプト遠征を開始する。
迎え撃つイスラムのエジプト勢は、宗主国オスマン・トルコの弱体化に伴って諸勢力が乱立して一枚岩ではなく、軍の近代化もヨーロッパ勢に比して著しく遅れている。
そんな中の秘策として、エジプト側に与する奴隷青年アイユーブは、読んだ人間を破滅に追い込むとされる伝説の書「災厄の書」をナポレオンに献上するため、主君の許可を経て翻訳作業に取り組むのだけど…。
謎多き語り手が、夜毎に少しずつ、作業者たちに授ける災厄の書の物語は、生まれた時代や空間を異にしながらも、やがては交わった三人の青年たちの物語。
淀みなく語られていく、それぞれの数奇な人生におけるむき出しの劣等感、鬱屈、孤独、執着性、凶暴性、はたまた、それらと表裏一体とでもいうように現れる不思議と陽性な感情は、なんだかじわじわと読者を捕食していくような危うい感覚に陥らせるのに、それでも、読み進めずにはいられない。
そして、四人目の青年の物語も。
読みきるのにかなりのエネルギーが必要だし、文体も古川さんらしく少し独特なので、好みは分かれそう。
でも、その壮大な世界にどっぷり浸かってみたい方にはおすすめ。
(ネタバレしてしまうと面白くないタイプの作品だと思うので、どうにも言葉足らずなレビューになってしまい、魅力が伝わらなかったかもしれません。けれど、個人的には、とても没頭、というか、災厄の書の聞き手さながらに耽溺できた作品でした)
- 感想投稿日 : 2021年8月16日
- 読了日 : 2021年8月16日
- 本棚登録日 : 2021年8月16日
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