終わりの感覚 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社 (2012年12月21日発売)
3.68
  • (49)
  • (74)
  • (74)
  • (21)
  • (1)
本棚登録 : 840
感想 : 106
3

記憶の性質を巧みに利用した静かな語り口の、けれど、後味の悪さが尾を引く作品。

記憶の「不確かさ」と「繋ぎ合わせ」。
その性質ゆえに、人生を思い出すことは、「再構成した物語」を語ることでもある。
そして、思い出すのに予期せぬ他者からの接触が原因となった場合には、記憶違いに気付かされたり、当時の自身の目には触れることがなかった衝撃の事実を知ることにもつながる…。

平凡に始終した人生の終盤に差し掛かったトニーのもとに、ある日、弁護士から手紙が届く。そこには、大学時代の恋人だった女性ベロニカの母親が、遺産として、500ポンドと、トニーの高校時代の親友で大学在学中に自殺したエイドリアンの日記を彼に残した、という内容が綴られていた。

ベロニカとは、40年前に別れて以来、一度も会っていないし、連絡先も知らない。
そもそも、ベロニカがエイドリアンに「乗り換えた」ことが二人の別れの原因の一つだった(少なくとも当時のトニーはそう思っていた)。
そして、別れた直後に、連名で「自分達が付き合うことを許してほしい」という手紙を送りつけてきて、トニーの自尊心を傷つけ。
しかし、その手紙事件の数ヶ月後に、幸せなはずのエイドリアンは原因不明の自殺をしており、トニーは人伝にそれを聞いていた。

それなのに。
なぜ、ベロニカではなく、その母が死んだ友人の日記を40年間も保管していたのか。
なぜそれを、彼女が自身の死に際して、今更トニーに渡そうとしたのか。
しかも、ベロニカは日記をトニーに渡すことを頑なに拒否しているらしい。

唐突かつ予想外に、いくつもの疑問に囲まれることになり、戸惑うトニー。
それでも、エイドリアンの日記を手に入れようと、ベロニカとの接触を試みるけれど…。

記憶の性質の活用や複数の謎の存在により、中盤までは、スリリングかつ刺激的で面白かったのだけど。
終盤で明らかになる事実…エイドリアンが「累積の問題」、トニーが「責任の連鎖」とそれぞれ表現したものが、どうにも受け入れられなくて。

登場人物たちそれぞれの不可解だった行動が、無責任で身勝手なものにしか思えず…。え、何これ、と思ってしまった。

うーん、よくできた作品だけど、人にはオススメできない…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー
感想投稿日 : 2022年3月26日
読了日 : 2022年3月26日
本棚登録日 : 2022年3月26日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする