ブラック・ジャック創作(秘)話~手塚治虫の仕事場から~ (5) (少年チャンピオン・コミックスエクストラ)

著者 :
  • 秋田書店 (2014年8月8日発売)
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本棚登録 : 258
感想 : 18
4

色々と壮絶すぎて、何度も泣きそうになったり、驚きの声をあげたり、笑ったりを繰り返して読み終えた作品。

「漫画の神様」手塚治虫の、一切の妥協を許さない鬼気迫る仕事ぶり、そして、愛すべき変人ぶりを、彼に関わった様々な人々の証言を基に構成し、一話完結スタイル(前後編あり)で描いた、ノンフィクション漫画(全5巻24話)。

手塚氏をそばで支え続けた家族や虫プロのスタッフたち。
毎回落ちそうになる原稿とりに、ヤキモキどころか寿命を縮めていた雑誌編集者や制作担当者たち。
そして、手塚氏の驚異的な情熱と仕事ぶりを間近で見て、刺激を受け、後に大成した漫画家たち(石ノ森章太郎、藤子不二雄の二人、松本零士、赤塚不二夫、永井豪など多数)。

手塚氏の周囲にいた、複数の人々の証言がこの漫画の土台となっていますが、決して誰か一人の証言をそのまま採用するのではなく、複数の証言が巧みに絡み合わされて展開構築されていることで、手塚像に奥行きと立体感、そして、リアリティが出ています。

決して「超然とした神様」などではなく、作品のためなら、「絶対に妥協せず手間もアイデアも人材も組織もお金も全てを注ぎ込む(本文より)」、はたから見たら狂気的な執念を持ち、そして、それ故に神様と言われるほど別次元に到達した、生身の人間の生き様が、ものすごい熱量を持って描かれています。

月10本近くに及ぶ連載のすべてのアイディアと展開を同時並行して考え、ペンを走らせながら、アニメ制作を行い、誰よりも自分自身を酷使しながら、ひどい時には月に数時間程度とまで言われた睡眠時間の中で、すべての作品を仕上げる。
しかも、その合間を縫って、台頭する若手漫画家の作品をチェックし、自身の弱点と考えているデッサン力の強化のためにディズニー映画のトレースをするなどしながら、新しい手法を貪欲に吸収する。

そんな驚異の努力の天才(ある意味重度の狂人)のわがままに、何度も何度もどころか、人によっては何年も何年も振り回されて蓄積されたとっておきのエピソードを、周囲の人々が、何十年もの時を経て、誰もが嬉しそうに、時には自慢げに語る姿に、ものすごくグッときます。

この漫画は、手塚氏を奥行きを持って描いた作品であると同時に、手塚氏を支え続けた人々の人生のひと時をも敬意とともに巧みに描いている点で、ルポタージュとしても、とても完成度が高いものとなっています。

手塚治虫氏の作品は、初期であれば私の祖父世代、中〜後期であれば私の父世代のものにあたり、恥ずかしながら、これまでちゃんと読んだことがなかったのですが、これを機に、日本漫画界を作り上げた名作の数々を絶対読もうと強く思わせてくれた作品です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: その他
感想投稿日 : 2017年12月3日
読了日 : 2017年12月3日
本棚登録日 : 2017年12月3日

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