最初から最後まで食い入るように観てしまいました。映像構成によって虚実を巧みに融合させることで、スリリングに、そして妖しく美しく、容赦なく人間の隠れた欲望や不満を暴き立てて堕としていく様が見事。徹頭徹尾、不穏で、不可解で、曖昧なまま終わるのも、いかにもフランソワ・オゾン監督らしい。
高校教師のジェルマン。彼はある日、生徒のクロードが書いた作文に心惹かれる。
クロードがクラスメートであるラファの家を訪れた時のことを綴ったものだが、クロードが覗いてみたかったという「普通の家庭」と、それを眺める自らの危うい心の内の独特で緻密な描写が彼を惹きつけた。そして、文末には「続く…」の文字が。
続きが気になってしょうがないジェルマンは、クロードに作文の個別指導をはじめる。
クロードは、毎日のようにラファの家に通い、そして、それを基にして毎週続きを書くようになる。
しかし、その内容は、どこまでが嘘でどこまでが本当かわからないが、どんどん危険で、そして、それ故に魅力的なものになっていく。
やがて、思う存分愛する文学を語り、高レベルの指導をし、それによってうまれる優れた作品をいち早く読み、そして、他者の家を覗き見する快楽に溺れたジェルマンは…。
ラファとジェルマンの二つの家庭をもてあそんで楽しむかのようなクロードの姿は、不気味。けれど、その美貌と謎めいた雰囲気も相まって、妖艶で、蠱惑的で、魅入られずにはいられないのです。彼の本心が最後までわからないままなのも、この物語の吸引力を高めています。
長年内に秘めていたはずの様々な不満や鬱屈、好奇心を、クロードに巧妙に刺激されて利用されて堕ちたはずのジェルマルが、意外にもそれなりに幸せそうに見えるのも、強い印象を残します。人は自分の本質を理解してくれる人には弱いということの暗喩なのでしょうか。
いかにもオゾン監督らしい、謎と蠱惑の世界が楽しめる人向けの作品です。
けれど、虚実入り乱れる映像の大胆な構成と、どんどん進む展開の速さの融合のおかげで、最後まで中だるみなく刺激的に楽しめるので、オゾン作品に馴染みのない人の入門版としても最適な気がします。
- 感想投稿日 : 2019年12月3日
- 読了日 : 2019年12月3日
- 本棚登録日 : 2019年12月3日
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