現代日本の思想: その五つの渦 (岩波新書 青版 257)

  • 岩波書店 (1956年11月17日発売)
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戦後民主主義を領導した思想家として知られる鶴見俊輔と久野収が、現実と密接にかかわる日本の思想史の五つの潮流について論じている本です。

本書でとりあげられている思想は、白樺派の観念論、日本共産党の唯物論、「生活綴り方運動」にみられるプラグマティズム、北一輝らの超国家主義の思想、「戦後派」の意識に根づいている実存主義の五つです。とくに鶴見は、アメリカのプラグマティズムの洗礼を受けた思想家として知られていますが、生活綴り方運動に日本の現実に根差したプラグマティズムの具体的なかたちを認めることができると論じています。また、共産主義についての考察は、鶴見の主要な仕事のひとつとみなすことのできる「転向」をめぐる研究に通じる議論が簡潔ながらも説明されています。

さらに、徳富蘇峰のような思想家が戦後になってかつての民主主義的な考えの記憶を呼び覚ますことができたのに対して、「戦後派」は軍国主義的な教育が崩れ去ったあとに自分たちの依拠するべき思想の空白を体験したと著者たちは述べています。そして、こうした事情が「戦後派」の意識を深く規定しており、「実存主義」と呼ぶことのできるような特徴が彼らの思想的な態度を覆うことになったということが論じられています。

「戦後」という時代が、同時代の思想家たちによってどのように認識されていたのかという観点から、興味深く読みました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学・思想
感想投稿日 : 2022年10月31日
読了日 : -
本棚登録日 : 2022年10月31日

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