名と恥の文化 (講談社現代新書 261)

著者 :
  • 講談社 (1971年9月1日発売)
4.00
  • (1)
  • (0)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 10
感想 : 3
3

ルース・ベネディクトは、日本人論の先駆的業績となった『菊と刀』の中で、西欧が「罪の文化」であるのに対して、日本は「恥の文化」であると規定しました。本書は、このベネディクトの洞察を引き継ぎながらも、日本における「恥の文化」が、中国における「名」の思想から強い影響を受けていることを解き明かしています。

著者は、儒教や老荘思想を幅広くとりあげ、中国の伝統思想の中で「名」をめぐってどのような議論が形成されていたのかということを解説しています。とくに、「名」と「実」が一致するべきだという「名分」の思想や、中国と日本の「恥」をめぐる意識などが、ていねいに説明されています。

また著者は、ベネディクトが「罪」と「恥」を峻別して、「罪」が内面的な自覚に基づくのに対して、「恥」は外面的強制力に基づいていると論じたことを批判して、ある意識が内面的であるか外面的であるかということは客観的な事実の問題ではなく心理的な問題だと述べています。もし「罪」が国家の刑罰の対象として強く意識され、個人にとってなじみのないものとして感じられるのであれば、外面的な強制力となります。反対に、世間に対する負い目の意識である「恥」も、心のうちに定着すれば内面的な道徳意識となります。そのうえで著者は、中国では早い時期に宗教的な意識が薄れてしまい、罪は天の罰に結びつくよりも、天罰の代行者である君主の刑罰に結びついたため、罪は法を犯すことにすぎず道徳意識としての資格をもたないと考えられるようになったことを論じています。

ベネディクトの「罪」と「恥」の二分法そのものに対する批判はしばしば見ることはありましたが、本書はベネディクトの議論をひとまず受け入れたうえで、その思想的背景をさかのぼって論じており、興味深く読みました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史・地域・文化
感想投稿日 : 2015年2月27日
読了日 : -
本棚登録日 : 2015年2月27日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする