愛の矢車草 (新潮文庫 は 15-1)

著者 :
  • 新潮社 (1987年12月1日発売)
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本棚登録 : 75
感想 : 10
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短編四作品を収録しています。

「愛の陽溜り」は、東京で一人暮らしをしている予備校生の増田駒夫と、その向かいの女子大の寮に暮らす女子学生の物語なのですが、その関係は、鬱屈した日々を送っている駒夫の自慰を、向かいの物置きの窓から目撃するというもので、バカバカしさのなかに哀愁のある内容です。

「愛の狩人」は、下着泥棒の新渡戸達吉が、弁護士の槙野緑郎にその女性観を滔々と語る作品です。葦の髄から天井をのぞくような身勝手な理屈でありながら、一人ぎめの洞察を積みかさねていく下着泥棒の「思想」に、なぜか感嘆させられてしまいます。

「愛の牡丹雪」は、うどん屋でパートをしている額田ヤエという中年女性と、女運転手の笠矧留子の愛をえがいた作品です。

「愛の矢車草」は、高校生にして翔太という息子をもつことになった、17歳の卓也の物語です。

よくある「愛」のかたちとは異なっているものの、登場人物たちの心情の動きをロジカルにえがき出すことで彼らに対する共感を読者にいだかせてしまうところに、著者の本領が示されているように感じます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の小説・エッセイ
感想投稿日 : 2021年11月3日
読了日 : -
本棚登録日 : 2021年11月3日

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