料理の四面体 (中公文庫 た 33-22)

著者 :
  • 中央公論新社 (2010年2月25日発売)
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料理を趣味とし、世界各地を旅してさまざまな料理に触れてきた著者が、料理についての分析をおこなった本です。

著者の提唱する「料理の四面体」は、火・空気・水・油という四つの基本要素を頂点にもつ四面体によって、世界中のさまざまな料理を位置づけることができるという考えかたにもとづいています。しかし、当初著者が本書の原稿を持ち込んだ出版社では、「きちんとした理論書でもなく、かといって役に立つ実用書でもなく、中途半端で出版に値しない」という理由でボツにされたと書かれており、また出版がかなった後も料理研究家から「ステーキはサラダである」といったような暴論に聞こえてしまう著者の意見への批判があったと書かれています。

著者の考える四面体上にあらゆる料理を位置づけることができたからといって、なんの役に立つのだろうかという疑問が生じるのも、理解できないわけではありません。著者は、本書のなかで一つの料理から四面体上の移動をおこなうことでべつの料理がみちびき出せることを示していますが、その効用について「知的なゲームとしてもなかなかおもしろいし、料理のレパートリーを実際にふやすためのトレーニングにもなるだろう」と述べています。

ただそれ以上に、ともすれば特定の文化的風土のもとに閉じ込められてしまいがちな料理をめぐるわれわれの思い込みを解き放つところに、本書の効用を認めてもよいのではないかと考えます。もちろん、料理をあじわうためにその料理の生まれた土地との結びつきにまで思いをいたすこともたいせつではあるのでしょうが、そのことを自覚するためにも、一度自明と思われた料理とそれに固有の文化的風土との結びつきから離れてみることも案外役に立つのではないかという気がします。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 趣味・生活・人生
感想投稿日 : 2021年5月1日
読了日 : -
本棚登録日 : 2021年5月1日

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