毎日新聞編集委員であり、『お隣り中国』(仙石出版社)の著者である新井宝雄と、彼の著書を批判した森康生との間で交わされた論争に、著者が横から割って入る形で、新井を批判した論考がもとになっています。巻末には、著者の批判に対する新井の反論も収録されています。
著者の批判は、新井に代表されるマスコミと、マスコミが信奉する戦後民主主義が見ようとしなかったものを明らかにするという手法を取っています。そして、そうした戦後民主主義の体質は、「皇軍の栄光」というタテマエを絶対化し、そのために虚構の中の存在と化してしまった戦前の軍国主義者たちの姿勢と、方向こそ反対であるとは言え、変わるところはないのではないかと論じています。
著者は、あらゆる言説を「事実論」と「議論」に分けた上で、「議論」のイデオロギー性が「事実論」を捻じ曲げてしまうことを批判します。ただこうした議論の仕方に疑問も感じます。著者の議論は、戦後民主主義のイデオロギー性を暴露するという手法をとっていますが、いっさいのイデオロギーを剥ぎ取って裸の事実に立脚するという立場は、いったい一つの立場たりうるのでしょうか。私たちは、何らかの価値へのコミットがなければ、「事実論」であれ「議論」であれ、そもそも議論をおこなう動機づけを持たないはずではないかという気がします。
相手のイデオロギー性を暴露するのではなく、お互いにどのような価値にコミットしているのかを明確にし、事実を通してその有効性を論証することこそが必要なのではないかと考えます。
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歴史・地域・文化
- 感想投稿日 : 2014年2月8日
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- 本棚登録日 : 2014年2月8日
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