ミクロネシア、オセアニア、東南アジアを経て北東アジアへと太平洋をめぐりながら、ナマコ漁とナマコ食にまつわる歴史と文化を解説している本です。
著者は、国境を越えて広がるナマコと人間のかかわりに焦点を据えることで、いまなおのこっている植民地主義的なフレームワークと、そこからの脱却をめざす内発的発展主義の立場の双方がともに陥っている歴史観の盲点を突いています。
海洋のルートに着目することで一国中心主義的な発想を乗り越えようとする試みとしては、たとえば川勝平太の「海洋史観」があり、大塚久雄の国民経済論に対するアンチ・テーゼという意味では本書の企図とかさなるところがあります。ただし著者は、川勝のように文明史という大きな枠組みを構築するのではなく、ナマコというミクロな視点を通じて、いまもなおわれわれの思考に影響をおよぼしている世界の見方を解体することをめざしているといってよいでしょう。その意味では、河川や海路を活動の舞台とした海民に焦点をあてることで、日本が伝統的に農業社会であったという見かたをくつがえすことを試みた歴史学者の網野善彦の仕事と、内外で共鳴しあうような著作であるということもできるように思います。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
歴史・地域・文化
- 感想投稿日 : 2021年3月13日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2021年3月13日
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