データで見る行動経済学 全世界大規模調査で見えてきた「ナッジの真実」

  • 日経BP (2020年4月17日発売)
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政府が市民を特定の方向に導く方法としては、法律による禁止・命令や税金・補助金による経済的インセンティブの付与がありますが、行動経済学の発展とともに注目を集めるのが「ナッジ」です。もともとナッジ(nudge)は、「肘で軽く小突く」という意味の単語ですが、行動経済学の文脈では、「一人ひとりが自分自身で判断してどうするかを選択する自由も残しながら、人々を特定の方向に導く介入」という意味になります。
ただし、ナッジを活用した政策は、「人の不合理な部分につけ込んで、操作している」というように捉えられる場合もあり、倫理的な懸念もあります。本書では、このナッジは受け入れられるけど、このナッジは受け入れられないという人々の受け止め方を、全世界の大規模アンケート調査によって明らかにしています。そこから見えてくる特徴としては、ナッジの目的が正当であり、大半の人々の利益につながったり価値観と一致したりすると考えられるときは、多くの人がナッジに賛成しています。たとえば、「チェーンレストランでカロリー表示を義務付ける」といったものです。逆に、金銭的負担を強いるデフォルトルールを設定したり(例:税還付時に50ユーロを赤十字に寄付することを義務付ける)、過度に操作的なもの(映画館で喫煙と過食をやめさせるためにサブリミナル広告を上映する)は拒否される傾向にあります。
また、国によってもナッジへの支持の傾向が異なります。欧米諸国に比べて、中国・韓国はナッジに対する支持が高く、日本・デンマーク・ハンガリーは支持が低い傾向があります。著者の仮説は、政府への信頼が高いとナッジへの支持も高いというものですが、デンマークは政府への信頼が高い国というデータもありますので、どうなんでしょうか。またこれは私見ですが、日本のナッジへの支持の低さもそれだけで説明がつくのかは疑問です。とはいえこれといった仮説もないのですが。
ナッジは強制力を伴うことなく、しかもお金をあまりかけずに政策が打てますので、うまく使われていってほしいと思います。ただし、市民に受け入れられないものは効果があっても使うべきではないし、間違えるとプロパガンダに使われちゃうという不安も無視できないでしょう。本書は、政策でナッジを使う際の重要なデータの1つになると思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年6月14日
読了日 : 2020年6月14日
本棚登録日 : 2020年6月14日

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