四雁川流景

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  • 文藝春秋 (2010年7月15日発売)
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感想 : 16

読み始めてすぐに今回は介護かぁ・・・と残念に思った。前作の小説、解離性同一性障害が題材の『阿修羅』を読んで消化不良をおこしていたからまたかという想い。読み進めるうち軸が介護でないことが見えてくる。

古くから川のそばに人は住み着き、水と共に生きる。

四雁川が流れる盆地に龍ヶ淵公園・稲荷神社・権現橋・地蔵橋・地蔵小道と延命寺がある。木々が茂り、四季に咲く草花、川の中に生きるものとそれを狙う鳥の羽ばたき、水音が聞こえ風が匂う。そこにありきたりの生活があり、個人にとっては重大な事件や死も繰り返された自然の一部として土地にしみ込んだ長年の歴史にのみ込まれていく。

景色を同じくして7つの短編からなる本
私が一番好きなのは最後の「中洲」
延命寺に修行見習いとして来た義洲(ぎしゅう)25歳。葬儀のあるたび寺へ手伝いに来ている70過ぎの谷と出会う。谷の背中には龍の彫り物がある。葬儀が入ると義洲は、30半ばの陽子と一緒に住んでいる谷の自宅へ知らせに行く。その玄関先には水槽があり巨大な真鯉が泳いでいる。
4年が経ち、義洲が寺の副住職となった夏のある日、谷が亡くなる。延命寺で和尚夫婦、義洲、陽子とで谷の葬儀をする。
初秋、義洲が谷の自宅を訪ねるとそこに陽子は居ず、家財道具もなく水槽も綺麗に洗い片付けられていた。陽子は町を出た。帰り道、義洲は四雁川の中洲にある見慣れない大きな石を発見する。生前、亡くなったらあの川に骨を撒いてくれと言っていた谷の言葉を思い出し、あの石の下に谷の骨があると義洲は確信した。寺に帰り報告する。和尚さん、奥さん、義洲は、あの巨大な鯉を抱え川まで運んだ陽子に想いを馳せながら三人で一緒にお茶をすすった。

四雁川が実在するのか調べてみたが見つからない。それでも今も四雁川に真鯉と谷の背中の龍が泳いでいるのか、鯉が龍になる伝説を思い出しながら読み終えた。
玄侑宗久さんのお坊さんの出てくる小説が好きです。「中洲」はこの一編だけでも一冊の小説になる血がかよった作品だと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2010年9月6日
読了日 : 2010年9月7日
本棚登録日 : 2010年9月6日

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