桐島、部活やめるってよ

著者 :
  • 集英社 (2010年2月5日発売)
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本棚登録 : 4614
感想 : 997
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朝井リョウさん、直木賞おめでとうございます!
わずか数年前は、雨の中、水を吸い尽くしたバスローブ姿で仲間と公道を行進し
青函トンネルを一般車両もすいすい通れると思っていたあなたが直木賞を受賞するなんて
おかあさんは。。。おかあさんじゃないけど、親戚でもないけど、うれしい♪

というわけで、予約したはいいものの、なかなか届かない『何者』は後回しで
お弁当の中の甘い卵焼き(大好物)を最後まで残しておくかのように
読まずに取っておいた、『桐島、部活やめるってよ』を読んでみました。

う~ん、みずみずしい!
制服の中を吹き抜ける風、自分の不甲斐なさに気づかない振りをする痛さ、
片想いの相手が不意に近づいてきた時に、全身の細胞が一気に目覚める感じ。。。
高校時代を振り返ろうとすると(かなり)遠い目をしなくてはならない私でも
当時の皮膚感覚や切なさ、苦さを思い出してしまうほどの臨場感。

デビュー作だけあって、後に書かれた『少女は卒業しない』などの
煌めくように美しい比喩に比べると、表現がかなり素直というか、直接的だけれど
そこもまた、若さが迸るようで、微笑ましくて。

校内ヒエラルキーの頂点にいたらしい桐島くんが男子バレー部をやめたことで
部内のバランスが狂って大きく影響を受けた子、噂話をするくらいの距離感の子、
トップが崩れようがどうしようがほとんど影響を受けない「底辺」と言われる子。
チャットモンチーやaikoの歌詞、映画『ジョゼと虎と魚たち』の台詞と
登場人物のその場その場の気持ちを絶妙にリンクさせて描くセンスが素敵♪

こういうテーマを選ぶと、「底辺」にいる子たちの苦しみを描くことに終始しがちだけれど
容姿にも恵まれ、たいして苦労もせず何事もそつなくこなしてしまう「上」の子の目に
全身全霊で打ち込める、大好きなものを持っている「底辺」の子を
「まぶしいひかり」として映し出すところに、朝井さんのやさしい視線を感じます。

それぞれの場所に必死に喰らいついてもがく5人の高校生の
けなげでいとおしい毎日の向こうに、爽やかな笑顔でトップに君臨していたはずの
桐島くんの苦しさや、地道な努力もちらちらと垣間見えるのが心憎い、
まさに「取っておいてよかった卵焼き♪」のような作品でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: た行の作家
感想投稿日 : 2013年1月19日
読了日 : 2013年1月18日
本棚登録日 : 2013年1月19日

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コメント 4件

kwosaさんのコメント
2013/01/19

まろんさん! こんにちは。

>当時の皮膚感覚や切なさ、苦さを思い出してしまうほどの臨場感。

本当にそう思います。
話し言葉のような文体に「若さ」を感じながらも、その観察眼のクールさと語り口にドキドキしっぱなしでした。
そしてこのデビュー作から、わずか数年で直木賞受賞。そのあいだにも学業と両立させながら何作も発表。そしていまは会社員(!?)
朝井リョウさん、あなたこそ『何者』なのでしょうか。

その『何者』も評判がいいので図書館で予約しているのですが、なんだか読むのが楽しみなような怖いような。
彼の才能にいまからビビっています。

まろんさんのコメント
2013/01/20

kwosaさん☆

こんな作品を大学在学中に書いた上に、直木賞受賞までの数年で
加速度的な進化を遂げてしまう朝井リョウさん、ほんとうに「何者?!」と言いたくなりますね。
コンスタントに作品も発表しているし、これだけの人気作家になったのだから
大学卒業と同時に作家生活に入ってもよさそうなものなのに、
ちゃんと堅実に就職するあたりも、謙虚でいいなぁ、なんて思ったりして。

私も『何者』は予約しているので、kwosaさんと同じころに読めたら素敵ですね♪
kwosaさんのレビューが、今からとても楽しみです。

koshoujiさんのコメント
2013/01/20

こんにちは。
朝井君には、おめでとうですね。
「何者」のレビューにはああいう風に書きましたが、内容的には素晴らしい作品です。
直木賞をとっても何の不思議もありません。
特に最後のどんでん返しが秀逸です。
選考委員が評価したのも最後の部分があったからだと思います。
早くまろんさんのお手元に届くように祈っています。
私は、これで彼が脚光を浴びて、図書館人気が出ると困ると思い、
「桐島」「星やどり」「もう一度生まれる」の三冊を慌てて予約しました(笑)。

それにしても、ニコ動で芥川賞、直木賞受賞者三名の記者会見を見ましたが、
三人とも個性があって素晴らしい会見でしたね。
黒田さんの日本語に対する飽くなき探究心、年齢を感じさせない凜とした語り、
面接を埋めているような朝井君の素直さと真面目さ、ユーモアセンス、
安部さんの人の良さそうな真摯な受け答えと自作に対する確固とした信念、
などなど、三者三様ながら、みなさん自分の作品にしっかり責任を取る覚悟で
モノを書いているのだなあ、と感じました。
こちらが勇気づけられるような素晴らしい会見でした。

まろんさんのコメント
2013/01/21

koshoujiさん☆

おお、「何者」には、どんでん返しがあるのですか!
いろんな人のさりげない日常が交錯して、変っていく未来の予感を匂わせるように終わる、
これまでの朝井リョウさんの作品とは、ちょっと印象の違う作品なのでしょうか。
とてもとても気になります!
あ、私も、koshoujiさんを見習って、
まだ読んでない「星やどり」をあせって予約しなくては♪

koshoujiさんがブクログを通してリアルタイムで知らせてくださったおかげで
ニコ動での会見、うきうきしながら見ることができました。ありがとうございます♪

私は例によって不勉強なので、黒田さんも阿部さんも、作品はもちろん
お顔も見たことがなかったのですが、
黒田さんは年齢より遥かにお若く見える上に
口跡がとても美しくて、聞き惚れてしまいました。
阿部さんは、テディベアのような素朴な容貌が、失礼ながらとても可愛らしくて
受賞作とのイメージのギャップが素敵でしたね(笑)
朝井さんは、写真でお顔だけは知っていましたが
本当に面接を受けてる就活生みたいに居心地が悪そうで
そこがまた母性本能をくすぐりました♪
これからの作品が、ますます楽しみですね(*'-')フフ♪

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