良書。
著者が意識したという通り、国際政治の文脈でパレスチナ問題の構図がよくわかる。
イスラエルのみならず、
中東戦争〜湾岸戦争に至るまで、米ソ、エジプト、シリアをはじめとした関係各国がどういった思惑で動いたかが詳しい。
国際政治から語ったがゆえにどうしても国家単位でのパワーゲームの描写が多く、パレスチナ側に割いた部分は意外なほど少ない。この点、「共存への道」とは対照的だ。93年合意に先立つ時期の執筆ということもあって、アラファトへの評価も高くない。
とはいえ、著者はけっしてパレスチナを見落としているわけではない。やはりシオニズムには批判的な立場だとみるべきであろう。
「ナチスの発想は・・・シオニズムの目標と相通ずるものがあった。シオニズムを裏返すとナチズムになる。』
そのシオニズムにも、労働党が代表する本流と、右派連合「リクード」が代表する修正シオニズムとがあること、占領地の意義が両者で異なることなどは初めて知った。つまり、政権がどちらかで和平協議の妥協の余地が異なるということだ。
また、パレスチナ人にも多様性があり、PLO(ファタハ)の支持基盤はむしろイスラエル国外の「ディアスポラ」、占領地パレスチナ人の不満を受け止めたのがイスラム原理主義(ハマス)、という構図もわかった。
他にも、アメリカの中東戦略の矛盾、エジプトの立ち位置、冷戦終結の影響、イスラエル国防の詳細など、勉強になるところが多い。中東は最新兵器の実験場だとか、イスラエルの入植者は千葉都民だとか、やや不謹慎ながら面白くわかりやすい表現もたくさんあった。
非常に興味深かったのは、パレスチナ人とユダヤ人の類似性の指摘である。共に国を持たず、歴史的に差別を受け、同胞との団結と高い教育水準で身を守ってきたというのである。
パレスチナ人の歴史的経緯については詳しく触れられていないので、ほんとに?と思うところもあるが、「パレスチナ人なんかいない(いるのは難民のアラブ人だけで、受入国に同化され、消えてなくなるべき)」というイスラエル元首相の発言は、逆にその類似性を証明しているように聞こえる。まるでユダヤ人に向けられた言葉のようだ。
宗教的同一性のみを唯一絶対のアイデンティティとし、紀元前の遺跡を根拠に土地の所有権を主張するユダヤ人の感覚は、私にはどうもなじめないもの。いったいイタリア人が、遺跡を掘り返してロンドンはイタリアのものだと主張するだろうか。だいたい、そこに住んでいるならその国の国民だろうに、なぜかたくなにユダヤ人であり続けようとするのかわからない。
ずっとそう思ってきたが、その議論はもしかするとパレスチナ人をも傷つけるのだろうか。
信仰もなく、自国から排除されたこともない民族にはわからないものを、イスラエルとパレスチナは共有しているのだろうか。
この本から15年以上経ったが、構図そのものに根本的な変化はない。現在でも有益な書。
- 感想投稿日 : 2008年5月20日
- 読了日 : 2008年5月20日
- 本棚登録日 : 2008年5月20日
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