確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力

  • KADOKAWA/角川書店 (2016年6月2日発売)
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図書館。


p191・・・「我々は、種々の消費者データを使い現実を診ます。その際にとても重要なことは、「現実」と「認識」の間には必ずギャップがあることを予め知っておくことです。 
我々の頭の中にある「認識の世界」と「現実の世界」の間には、どうしてもズレや誤差が生じるのです。「現実の世界」を知るには、現実をサンプル抽出したデータや言語などの「記号の世界」に一度翻訳しなくてはなりません。我々は現実の全体を直接診たり触れたりできる訳ではありません。その一部を「記号の世界」に通すことで、我々の頭の中の「認識の世界」を構成することができるのです。 逆の場合も同じです。(中略)文字と言う「記号の世界」に落とし込めるのは、頭の中にある我々の「認識の世界」のほんの一部に過ぎないのです。 しかし、それでも我々は「認識」と「現実」の間に、データや数字や言語といった「記号」を媒介させて、現実の世界をできるだけ正しく知るしか方法がないのです。そのためには、間に必ずズレが生じていることを知った上で、
1)あらゆる「データ(記号)」の性格をよく理解し、できる限り現実に符号させながら読み解いていくこと。
2)できるだけ多角的な「データ(記号)」を用いて整合性のある現実の認識を構成していくこと。
この2つのアプローチしかないと私は考えています。」

→日ごろ「言葉」について考えるときに、言葉にすることによって頭の中のものが陳腐になってしまう感覚にあることがあって、そのことともリンクする話だなと思った。
また、最近、電力需給逼迫についての分析の記事を読んで、かつそれに対する賛否(?)の意見を読んで、感じたギャップも、このこととリンクするなと素人の不勉強者が言うのははばかれるが、そう思った。そのギャップを分断ではなく連帯に持っていこうとする中で課題解決に向かっていくのだろうし、その過程で先に出た「情緒を配して意思決定できるリーダー」が必要なのだなとも思った。森岡さんなら、エネルギー政策についてどんなロードマップを描くのだろう。電力、歴史、政治、経済、地方社会、雇用、科学…要素が多すぎる世界。森岡さんならどう考えるのか、気になるし、頼りたい気持ちも。
さあ、今の自分は?へっぽこ。分析できるだけの技能と、課題とその周辺に対する知識と経験を積み重ねるとき。

・p117・・・「そもそも意思決定に際して必要な情報が8割も9割も揃うなんていうことは滅多にないのに、大局に影響のないもう少しの情報が足らないことを言い訳にして、決定を先延ばしにする上司を見たことはないですか?悩み困った顔で、以前に話したはずの論点を蒸し返し、議論をグルグル回したりして、なかなか決められない上司を見たことはありませんか?選択による結果が重大であればあるほどストレスは猛威を振るいます。自己保存の本能の強い人間は意思決定をしたくないのです。(中略)ほとんどの人間がそのような性質を持って生まれてきている(後略)」

→その決断に巻き込まれる人が多いほど、それは顕著だよなあ。そりゃそうだよなあ、と。そのために、感情に左右されずに冷静に分析して、分析結果を割り切って検討して決断する必要がある、と。難しいけど、大切なんだよなあ。

・p120・・・「日本人は感情と理性を切り離すのが苦手な人が多いと私は感じています。意思決定に情緒が深く入り込んでいるのです。英語では、感情(Heart)と理性(Mind)を言葉で使い分ける人よりも「心-こころ」という1つの言葉で、その2つを一体として感じている人の方が圧倒的に多いのではないでしょうか?(中略)情緒的なベクトルが入り込んで、目的に対して正しい選択肢よりも、できるだけ痛くない方向へ進もうとする。あるいは皆が納得しやすいように調和を重視するあまり、皆の意見を足し合わせて丸めた「落としどころ」を最初から考えている。それらは、本当に中長期的に全体にとって正しい意思決定なのでしょうか?」

・p126・・・「一見すると偶然に思えるようなビジネスの様々な「現象」の中から、「本質」を、つまり勝つための法則を見つけ出す技術が必要(中略)企業としては組織の能力としてそれができるかどうかということが問われているのです。私の場合は、そのために確率思考を使います。」

→この後、ご自身が決して特別に頑丈なわけでも、何も感じないわけでもないこと。痛すぎて「人に好かれようなんてこれっぽっちも思わない」という鎧を着ることに決めたこと、USJに来てから毎冬のように血尿生活だったこと等、ご自身の心の中で暴れる激烈な感情といつも戦っておられたことが書かれていた。「マーガレット・サッチャーが実は感情豊かで人間味に溢れた女性だ」という彼女に近しい人の発言、そんな彼女が強い意志と訓練によって決断の際には自分の豊かな感情を押し殺していたこと。「情緒を配した正しい意思決定をすべく、卓越した努力を重ねて、「鉄の女」の異名を持つほどのリーダーに成長していった(p126)」ことについて触れていた。

私は全くスケールは違うけれど、特に子どもが生まれてからは決断の軸をどこに置くのかを見誤りそうになることがある。子どものため家族のためと言いながら、自分のためでは?それは子どもの為と言いつつ、自分の責任を遠まわしに子どもに転嫁していることになりやしないか?と。

適宜、どこに軸や重心を置くべき課題なのかを考えるようにしているつもりだけれど、なかなか感情や周りとの関係を考えると決断に時間がかかることもあり。そんなことにつながる話だなと思った。場面場面で冷静に考えたり学ぶ時間を持つ余裕が今の私には必要だし、そんなことを重ねていくことで、優しく強くあれるようになりたいと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書 ルポ 自啓 実用 教育 レシピ
感想投稿日 : 2021年1月22日
読了日 : 2021年1月20日
本棚登録日 : 2021年1月22日

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