大阪弁というのはとっても感情が豊かな方言であることを思い知りました。ひょうきんで「笑い」が得意かと思えば、ひとたび怒らすと恐ろしいほどドスが効き、胸が締め付けられるような切なさが迫ってくる哀しさを秘めていて、そして愛情にあふれた優しさが感じられる、ものすごく魅力的な言葉。
この本は全編、そんな大阪弁で書かれています。主に語っているのは辰巳緑ちゃん14歳。おばあちゃん、お母さん、いとこの藍ちゃんと、その娘の4歳の桃ちゃん、そして猫のカミさんとホトケさんに犬のポックリさんと、いろんな匂いのする家に暮らしています。なんと全員女性(メス)。仲がいいのは、小一のときからの親友明日香と、明日香のクラスに転入してきたコジマケン。緑自身はそれが何なのかよくわかっていないけど、淡く切ない「初恋」という感情も味わいます。
途中、ちょこちょこと誰かの独白が挟まれます。それが誰の独白なのか、最初はわからないけれどだんだん明らかになっていく。一人じゃないのでちょっとややこしいかもしれませんが、それらが分かった途端、それまで感じていた切なさがぐぐんと倍増します。わたしはプロレスには詳しくありませんが、この本全体を通して、アントニオ猪木が効果的に郷愁を誘っていますね。じんわりと心に沁みてくるものがありました。
すっごくあったかくて、なんだかたまらなくもの悲しい小説です。切なくて胸が苦しくなりつつも前向きで、すごく良い。「ああ、良いなぁ」としみじみつぶやいてしまいます。読了後、ふんわりと「こうふく」な気持ちに包まれました。これまでの西さんの小説では一番好き。自信を持ってお勧めします。
本書には、もうひとつ別のお話がくっついています。これが「みどり」なのに対し、もうひとつは「あか」。二ヶ月連続で発売されました。<上下巻のように見えつつ、実は全然内容は違っていて、でもどこかでつながった、二冊の小説>。もちろん、「あか」の方も後ほど読みます。うおお、すっごく楽しみ。
読了日:2008年5月14日(水)
- 感想投稿日 : 2009年7月16日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2009年7月16日
みんなの感想をみる