ガリア戦記 (講談社学術文庫)

  • 講談社 (1994年4月28日発売)
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世界史でも有名なガイウス・ユリウス・カエサル(Caesarシーザー 紀元前100~紀元前44)の書いた「ガリア戦記」。優れた武人だった彼がいかに文才溢れた人だったか……余計な装飾なし、質実剛健、的確で怜悧で美しい、ときに直接話法が挿入され、まるで戯曲のようなメリハリ……ほんとうにびっくり仰天です!

「確かにすばらしい。それはむき出しで、率直で、優雅である。裸体が着物を脱いでいるように、あらゆる修辞的装飾をかなぐり捨てている」(キケロ「プルトゥス」)

紀元前900年ころから欧州(今のフランス、ベルギー、北イタリア、スペイン、ドイツ、イングランド)の広大な地域を移動しながら、主に農耕に勤しんできたケルトの多種多様な民族。当時のローマは彼らをガリア人と称し、紀元前59年~51年、カエサルは、このだだっ広いガリアの地を東奔西走しながら征服していきます。読んでいるだけで眩暈がしそうなほど仕事中毒なカエサル、信じられません、一体こんなすごい戦記をいつ書いたのだろう? う~ん、忙中閑あり!?

もっとも歴史はつねに多面的で、ガリア人(ケルト人)からみればローマのカエサルという男は恐るべき征服者です。「ガリア戦記」をながめてみても、平和や防衛の名のもとに、征服のための戦争をなかば正当化している様子が伺えます(現代でも頻繁に耳にするような話)。考えてみれば、2500年前のペルシャの戦争、ペロポネソス戦争、ギリシャとローマの戦争……いつの世も人間は戦争や破壊に明け暮れているのだと思うとしょんぼりしてしまいます。それでも当時のそういった時世を理解することができ、ローマの風習や政治・規律、元老院の様子(このあたりは『プルタルコス英雄伝下』が面白いですよ♪)、ガリア民族の興味深い記述を目にしていると、こんなに凄い書物を残したカエサルという人物や、それが後世にまで残った歴史の奇跡に驚いてしまうのです!

「ガリア戦記」は、ローマ屈指の詩人ウェルギリウスの「アエネーイス」にも多大な影響を与えたようです。確かに来る日も来る日も戦争に明け暮れていたローマという国、でもそのローマでさえも抗えない「時」という怪物にいずれは呑み込まれていきます。人間の営みの途方もない栄枯盛衰……当時の詩人らの作品をながめてみても、平和を希求する彼らの哀愁が伝わってきます。
それから2000年たったいま、あいかわらず内戦や紛争に明け暮れている世界、当時とさほど変わらないのではなかろうか……そんなことをつらつらと考えてしまいます。これも読書の醍醐味ですね♪ 後世のシェイクスピア、モンテーニュ、ゲーテ、ナポレオン……といった人々に霊感を与えてきたこの本、みごと壮大!

***
整えた髪にアクティウム戦勝の月桂冠を戴き、
平和女神パクスよ、おいでください。
全世界で優しくあり続けてください。
敵がいなければ、凱旋を祝う理由もありませんが、
その間はあなたこそが将軍たちにとっては
戦争よりも大きな栄光となるのです。
兵士が携える武器は
防衛のための武器だけでありますように。
荒々しいラッパの音が告げるのは、
ただただ祝祭の行列でありますように。
近隣から最果てまで、
世界中がアエネーアスの血統におののきますように。
もしローマを恐れない国があったとすれば、
その国はローマを愛しますように
        ――オウィディウス

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感想投稿日 : 2017年7月1日
本棚登録日 : 2017年6月14日

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