ローマ人の物語 (31) 終わりの始まり(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2007年8月28日発売)
3.73
  • (57)
  • (99)
  • (125)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 935
感想 : 64
5

 本書で語られるのは、五賢帝時代の掉尾を飾り哲人皇帝として名高いマルクス・アウレリウスから、セプティミウス・セヴェルスまでの治世です(紀元2世紀末から3世紀初)。タイトルのとおり、いよいよローマの衰亡が描かれていくことになります。
 ギボンの『ローマ帝国衰亡史』を初め、ローマ帝国の衰亡は五賢帝時代の終焉とともに始まったとする史観がこれまで主流でしたが、本書ではこれに異を唱えています。ローマが絶頂を極め、後世の評価も高いマルクス・アウレリウス帝の政治を、第IX巻で扱ったハドリアヌス帝やピウス帝、さらにはユリウス・カエサルとも対比させ新たな視点で検証すると、ローマ衰退への道は既に敷かれ始めていたということが明らかになるのです。
 指導者である皇帝たちの資質の変化や、国内の階層間の対立、そして帝国を外から脅かす異民族の存在など、さまざまな要因が作用して、帝国はゆっくりと没落への階段を降りていきます。ついには、マルクスは戦地で没し、その息子コモドゥス帝は怠惰に陥り暗殺され、続く時代では帝国を守ってきた将軍たちが割拠して帝位を争うという、「黄金の世紀」では考えられなかった混乱へと突入していきます。
 永遠に続くと思われた右肩上がりの時代を終え、新たな時代へと踏み入ったローマ帝国。その指導者たちの迷いと奮闘ぶりから浮かび上がってくるのは、「矜持」を中心に据えた新しい指導者論です。同じように混迷と不安に覆われている現代の日本にとっても、彼らの生き方から学ぶことは多いに違いありません。
 「ローマ人の物語」全15巻を時代ごとに三つに区切ると(ローマ建国からユリウス・カエサルまでの「第一期」、アウグストゥスによる帝政開始から帝国の絶頂期までが「第二期」)、この巻は「第三期」の始まりと言うことができます。第一期や第二期のローマ帝国を常に視野に入れて叙述される本書は、「ローマ人の物語」の導入篇としてもふさわしい内容であると思われます。

マルクス・アウレリウスの善政ぶりでも、復活しないローマ。
前任だけでは、世の中が回らないかと思ってしまうないようです。
才能がないとしりながらも、コモディウスを肯定にしなければならなかった現実。
現代にも適用できる問題山盛りです。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2009年4月25日
本棚登録日 : 2009年4月25日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする