科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方法をさぐる (NHKブックス)

著者 :
  • NHK出版 (2005年1月27日発売)
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 科学哲学の入門書。科学哲学を専門にしている大学教師の「センセイ」と二人の学生(つまりリケジョのリカさんと現代思想オタクのテツオくん)の三人による対話形式。まず科学哲学の歴史から入り、現在でも未だ解決していない科学哲学の難問に対する「センセイ」=筆者の解答が示される。
 一口に「科学」とは言っても、その捉え方は様々である。本書を読むと、自分が如何に色々な立場の考えをごちゃ混ぜにしていたかを突きつけられる。直観的には、科学の対象には確かに実体があって科学はその姿を少しずつ明らかにしていく営みだと思っているのだが(科学的実在論)、中途半端な聞きかじりの社会科学の知識も持っているので科学は結局科学者の間の社会的合意に過ぎないという主張も分かるし(社会構成主義)、科学理論が世界についての真理を語っているとは限らないという考えも理解できる(反実在論)。例えば、量子力学には正準量子化という重要な手法があるのだが、この手法が何故上手くいくのかは、少なくとも今は、経験上上手くいっているからとしか説明しようがない(清水『量子論の基礎』)。こういうことを知ると、最も直観的に思われた科学的実在論は俄かに怪しく思われ、現象をうまく説明できさえすればそれで良いという反実在論になってしまう。筆者は科学的実在論を擁護する立場に立っており、彼の、社会構成主義や反実在論といった他の陣営からの批判に耐え得るような理論の構築の試みを、本書の後半で見ることができる。
 最近関心があることとの関連で言えば、「帰納」というのは論理的に言えば飛躍のある推論方法である訳だが、それが科学の方法として正当化されるのは何故かというとそれはまさにこの世界が帰納がうまくいく世界だからだというのが、人間原理に近いと思った。「帰納を使って科学をやってよさそうな究極の理由は、宇宙のわれわれがいる場所が、帰納が役に立つような場所だからだ。われわれのいる場所が、ありとあらゆるものがもっとカオス的で、最初の状態がちょっと違っただけで、そのあとどうなるかが劇的に違ってしまうような現象に満ちあふれているのだったら、帰納という情報処理をやる生き物は進化してこなかっただろう。(略)それどころか、そんな太陽系では安定した軌道を回る惑星が存在できなくなるから、そもそも科学をやるような知的生命が進化してきたかどうかも分かりませんよね。ということは、わたしたちの科学の方法がうまく当てはまるようになっているということが、同時に科学という営みが生じてくる条件でもあるってことかしら。」(p.266-267)岩井克人の、「貨幣が貨幣なのはそれが貨幣だからだ」ともロジックが似ている? たまに見る論法なので、何か名前が付いていそうな気もする。

Ⅰ 科学哲学をはじめよう—理系と文系をつなぐ視点
1 科学哲学って何?それは何のためにあるの?
2 まずは、科学の方法について考えてみよう
3 ヒュームの呪い—帰納と法則についての悩ましい問題
4 科学的説明って何をすること?
Ⅱ 「電子は実在する」って言うのがこんなにも難しいとは—科学的実在論をめぐる果てしなき戦い
5 強敵登場!—反実在論と社会構成主義
6 科学的実在論vs.反実在論
Ⅲ それでも科学は実在を捉えている—世界をまるごと理解するために
7 理論の実在論と対象の実在論を区別しよう
8 そもそも、科学理論って何なのさ
9 自然主義の方へ

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 4 自然科学
感想投稿日 : 2021年3月31日
読了日 : 2021年3月28日
本棚登録日 : 2021年3月1日

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