舞台は平成の次の時代である。
高度に情報化が進展した社会の中で人々は生活する。
本書はその情報化の末路としての管理社会、人間の機械化を取り扱う。
ということで背景設定は、同じく未来における管理社会を描いた1984年(ジョージ・オーウェル著)を彷彿とさせるものとなっている。
しかし、1984年の読後には管理社会の恐ろしさが強烈に印象に残ったのに対し、本書の管理社会のあり方には大して恐怖は感じず、あまり印象にも残らなかった。
なぜか?
理由として考えついたのは、1984年が「私たちにとって想像もつかない、しかしよく考えたらもしかしたら起こりる事態」を描いているのに対し、モダンタイムスでは「容易に想像できる、私たちがすでに片足を突っ込んでいる未来」を描いているということだ。つまり、モダンタイムスの中の世界は私たちが慣れ親しんだ日常にかなり近いため、恐怖を感じにくいのではないか。
あとは単純に、1984年の中では恒常的に規則に縛り付けられるのに対し、本書ではシステムを壊す可能性のある人間に制裁が加えられるのみで拘束の程度が違うということもあるだろう。
とはいっても、「人々が管理されていることにも気付かない管理社会」「日常の中のありうる脅威」を中心に取り扱う以上、このように多少印象が薄くなってしまうのは仕方がないのかもしれない。
少々不満はあるものの、政治学を勉強する際に何度か触れたことのある「支配者不在の支配」「国家(システム)の自己運動」「人間の機械化」と現在進行中の情報化が結びつけられて小説として組み立てられている点は自分としては新鮮で楽しめた。
また、最後に「それでも巨大なシステムに抵抗しようとする人間」と「システムへの抵抗をあきらめ、私的な営みの中に幸せを見つけていく人間」の二種類の人間が描かれたことも、現在の社会を反映しているようで面白かった。
- 感想投稿日 : 2013年2月25日
- 読了日 : 2013年2月25日
- 本棚登録日 : 2013年2月25日
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