この本は、応用倫理学では有名な加藤尚武教授が放送大学のテキストとして書かれたものに、本人により加筆されたものである。テキストらしく、古典的な倫理学から応用倫理学までの重要な論点がざっと解説してある。
語り口はやさしく、それぞれの論点が、簡潔ながらとても分かりやすく説明してある。カント、ヒューム、ロールズなどの考え方が端的に示されると共に、新しい論点である生命倫理学や環境倫理学についても触れられており、倫理学の鳥瞰図を示す形を取っている。
また、この本は文庫サイズで、正味250ページを割るというボリュームから推察される通り、個々の論点の詳述に関しては当然期待すべくも無いだろう。分かりやすく鳥瞰図を示し、必要に応じ何を調べれば良いか、何が倫理学の論点として議論されてきたのかを学習者に伝えることができれば良いわけだ。
その点、確実にこの本は目的を達成している。自由主義と共同体主義、愚行権についてなど、一般に倫理学の論点として語られるものはほぼ網羅してあり、次のステップに入ることがこの本を読むことによりとても容易になる。こういう書物は倫理学の分野には以外と無かったのである。
また、それぞれの章(全15章)が「人を助けるために嘘をつくことは許されるか」のように、設問形式になっており、興味を喚起しやすいのも特徴だ。
著者の結論はかなり唐突に示されることがあるが、気にすることはない。哲学系の世界では、そもそも結論は自分で考えるものだし、きちんと自分なりの結論を見いだすためにはにはもう少し詳しい本を読まなければならない。それはこの本の範疇を超える部分なのである。
- 感想投稿日 : 2010年10月10日
- 読了日 : 2010年10月10日
- 本棚登録日 : 2010年8月13日
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