大統領の執事の涙 [DVD]

監督 : リー・ダニエルズ 
出演 : フォレスト・ウィテカー  オプラ・ウィンフリー  ジョン・キューザック  ジェーン・フォンダ  アラン・リックマン  テレンス・ハワード 
  • KADOKAWA / 角川書店
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感想 : 103
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アメリカ大統領に仕えた黒人執事を窓口として、アメリカの公民権運動の歴史やその背景を描いだ伝記映画。
白人・黒人の差別意識はアメリカのトップを巻き込んだ内戦と化していった歴史があり、それまでには各人種間の激しい対立があった。

何より悲しくなったのが、セシルの長男ルイスと活動仲間であるキャロルが飲食店での座り込み運動のために、涙ながらに訓練しているところだった。
今作で描かれた座り込み運動とは、当時の飲食店に「黒人専用席」といって好きなところに座ってサービスを受けることができない制度に由来し、黒人人権運動家たちが、その黒人専用席以外に座り続けるという運動だった。
そのためには、移動しろ、と言われるだけではなく差別用語をひらすらに浴びせかけられ、熱いコーヒーをかけられても頑なに座り続けなければならない。
だからこそ、その練習のために、敢えて罵声を浴びせさせるという訓練をしていた。
運動に参加している人間はそんなこと露ほど望んでおらず、むしろ嫌悪しているというのに、「あえて」その状況に立つことによって、非暴力的に周囲にその異常性を訴えなければならい。
だとしても、その試練は過酷すぎるように思えた。
訴える以上、そこまでのリスクを負わなければならないのかもしれない、だた一杯のコーヒーを自由な席で飲むために?
あまりにもリターンが小さすぎるようだが、だた一杯のコーヒーを飲むことをはじめとした些細なことでさえ、黒人というだけで彼らは比較され、社会の制度の中でも別の存在として扱われる仕組みが出来上がってしまっている。
たったそれだけだが、彼らが望む「自由」のためにはそうしなければならなかったのだろう。
そうせざるを得ない状況と立ち向かうために身を切るような戦いが、非常に胸を打つ。

その激しさを物語るのが、KKKという白人主義の団体が起こしたバスの爆破事件だまるで亡霊か屍者のように浮かび上がる白三角頭巾の集団は手に松明を持って、バスを取り囲む。人種が違うというのは決定的にここまで行動を起こさせてしまう。
そもそもアメリカ自体移民の国だ。元々根付いていた人々を排除、あるいは吸収して成り立っている。そんな人たちからすると、やっと見つけた自分たちの国を外部の人間に介入されたくないという気持ちがあったのかもしれない。
それは誰にとっても身近な感情であると思う。
誰だって、ぽっと出の存在に、どうこう言われたくないという気持ちを感じる機会はあるだろう。

ホワイトハウスバトラー(執事)で給仕に従事していたセシルには苦々しい思いもあっただろう。自身の経験からしても、その歪さは感じ取っていたとしても、農場で見た彼自身の父の悲劇が、彼を黒人専用席に座らせるようにしている。
それを当たり前のようにしていれば、殺されることはない。
待遇がおかしくても、最低仕事を失うこともない。
彼は自分の身を、そして家族を守るためにずっとそうしてきたのだ。
しかしセシルの息子のルイスは「白人の大統領に仕えている」と思ってセシルに反発してしまう。悲しいかな、決して執事という仕事時代は並大抵のことではできない。空気のように立ち振る舞い、相手の表情を見て求めていることを感じ取る。2つの顔を持ち合わせて、使い分けなければならない。
いわゆる私と公を完全に断ち切ることが前提に求められる。
だからこそセシルはホワイトハウスで信頼を勝ち得てくることができたのだろうし、時代に応じてアメリカという白人だけではない国の葛藤を間近で見ることができた。
公民権運動の最中であれば裏方を見ていながら、2つの顔を持ち合わせているために、傍観することしか許されなかった。

とりとめもないピックアップになってしまった。
伝記映画としては大統領の任期を順繰りに辿るので理解しやすいかもしれないが、世界史や近代史を知っている人であればより良く理解できるかもしれないし、これを機に調べてみるのも良いかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 映画
感想投稿日 : 2018年3月13日
読了日 : 2018年3月13日
本棚登録日 : 2018年3月13日

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