花 (百年文庫 67)

  • ポプラ社 (2015年1月2日発売)
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本棚登録 : 76
感想 : 16
4

全100巻の「名短編」集の一冊。絶版と聞いて古いものかと思ったらそんなことはなかった。ポプラ社からこういうのが出てたのは知らなかったなあ。
つい書物の王国シリーズと較べてしまい、しかも集めたくなってしまって困る。
森茉莉「薔薇くい姫」、片山廣子「ばらの花五つ」、城夏子「つらつら椿」を収録。

(たぶん)新書サイズ、スピンつきの変わり種。これは標準装備なのかオプションなのか、パラフィン紙を羽織ってしゃなりと小粋。いい出逢いをした。
漢字一字をテーマにしたアンソロジーということで、収録作はとりどりに「花」が際立ち面白かった。
「薔薇くい姫」、いかにも著者自身を語っているこの内容からどんな成り行きでこのタイトルに……?と首を傾げつつ読み始めたのに、いざそれがドンと掲げられて、最後まで読むともうこのタイトルしかありえないような気がしてしまう(しかし放射能は気になるらしいのに農薬や黄砂はいいんだろうか?)。大人として扱われないことに怒っているとしながら、少女が蝶よ花よと愛されたがるような素振りがあって、そのアンバランスさがいたわしく、心のどこかでいとわしい。森茉莉自身、ユーモラスに語りながらそういう自分に内心忸怩たるものもあって、それでもこれが私なのだと主張した人じゃなかったかと思う。主張しながら、心の中には怯える小さな女の子がずっといたかもしれない。
「ばらの花五つ」はかなりの小品。短いながらすっきりと整っていて読みやすい。これからたぶん訳業のほうを主に読むことになりそうだけど、そのうち創作もぜひもっと読んでみたい。
「つらつら椿」、父とおみわさんの恋物語を聞いた「私」の心境の変化に、ある種こわいものを感じた。女の子の成長が速いというのはこういうところなのかもしれない。父が同じ恋物語をどう語るのか気になるけど、それを描いたらこのお話は成立しなくなりそうなので、想像するのもやめておく。おみわさんのしとしとと降るような言葉のやさしさが印象的。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年2月22日
読了日 : 2020年2月16日
本棚登録日 : 2020年2月22日

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