「兵士」になれなかった三島由紀夫

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  • 小学館 (2007年7月31日発売)
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●:引用
●(略)三島は、<誰にきいても70年楽観説が支配的>だとして、<何やら張合あいのない毎日>であると書きとめている。しかし、もし鉄パイプと火炎ビンで武装した全学連のでもが東京を騒乱状態に陥れ、もはや警察力では制圧できないとなれば、当然、自衛隊に治安出動の大命が下り、民間防衛の尖兵たる「盾の会」にも出番がまわってくる。そしてその先には、自衛隊が創設以来、願いつづけてきた「憲法改正」が待っている。おそらく三島が想定していたのはそういう事態だったのだろう(略)
●隊員ひとりひとりが訓練や任務の最前線で小石を積み上げるようにどれほど地道でひたむきな努力を重ねようとも、アメリカによってつくられ、いまなおアメリカを後見人にし、アメリカの意向をうかがわざるを得ない、すぐれて政治的道具としての自衛隊の本質と限界は、戦後20年が60余年となり、世紀が新しくなっても変わりようがないのである。私が15年かけて思い知り、やはりそうだったのか、と自らに納得させるしかなかったことを、三島は4年に満たない自衛隊体験の中でその鋭く透徹した眼差しの先に見据えていた。もっとも日本であらねばならないものが、戦後日本のいびつさそのままに、根っこの部分で、日本とはなり得ない。三島の絶望はそこから発せられていたのではなかったのか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2012年に読んだ本
感想投稿日 : 2012年5月3日
読了日 : 2012年4月27日
本棚登録日 : 2012年5月3日

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