映画監督であり、女優であり、作家でもあるミランダ・ジュライの不思議なインタビュー集。
ミランダの家には毎週火曜日にフリーペーパーの『ペニーセイバー』が届けられる。脚本執筆のスランプに陥っていたミランダは、その小冊子を熟読するうちに、ふとここに売買広告を出すのは一体どんな人たちなのかと興味を覚える。そして、とうとう手当たり次第に彼らに電話して、インタビューのアポイントを取り始める。
本書にはその12人との邂逅が、たくさんの写真とともに掲載されている。売り物も、革ジャケットからオタマジャクシ、赤の他人のアルバムと買い手がつきそうにないものばかり。当然、売り手自身も個性的で、小銭をセイブするために広告を出している人ばかりではない。
本書はまた、ミランダの映画『ザ・フューチャー』ができるまでを描いている。そこには、クリスマスカードの表紙部分を『ペニーセイバー』で売りに出していた老人ジョーとの、あまりに忘れ難い出会いがあった。
実のところ、読書中はミランダの上から目線がひたすら鼻についた。結婚や子どもをつくることが、人生を物語るに足るものにするという言葉にも反発を覚えた。インタビュー相手へのあまりに辛辣なコメントには、ここに載っている人たちは自分がどう描かれているのか知っているのだろうかと心配になるほどだった。
ただ、よく考えてみると、ミランダは己の感覚を飾らずに表現しているだけなのだ(もしかすると、飾らない風に飾っているのかも知れないが…)。おそらく、あのインタビューの場にいたなら、私も同じような嫌悪感や恐怖を感じるだろう。それを書く勇気がないだけで。
結局、読み終えた後も消化し切れずに、また取り出しては何度も読み返している。なぜこのタイトルにしたのかも気になる。最近ではあまりしたことのない不思議な読書体験が続いている。
- 感想投稿日 : 2021年9月28日
- 読了日 : 2021年9月28日
- 本棚登録日 : 2021年9月28日
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