ここにきて、ようやっと読み出した八咫烏シリーズ。積読が数年に及んでいたため、私の手元にあるのは旧カバーだけど、個人的にはこちらの方が好みだったりする。
ファンタジーというと中世ヨーロッパのような世界観が多数を占める中、小野不由美さんは十二国記シリーズで古典中国のような精緻な世界観と天命説を組み込んで見せた。それでは本シリーズはどうかというと、日本の平安朝のような、華やかな姫君たちのサロンが舞台である。そこは八咫烏の一族が支配する世界であって、なんと人間は鳥の姿に転変できるという。一歩間違えたら冗談になりかねない、摩訶不思議な設定だと思う。
本書の評価は大きく割れているようだが、それは始めにどういうマンインドセットで読み始めるかにかかっている気がする。
剣と魔法を期待したファンタジーファンは、貴族の権力闘争と、若宮の后の座を巡るどろどろした女の闘いに、肩透かしをくらったように感じるだろう。ましてや最後の展開には、気持ちの悪ささえ感じてしまうかもしれない。
だが、本書は松本清張賞受賞作品である。解説で東えりかさんが書かれているように、後半にきて物語はガラリと、本当にガラリと空気が変わる。まるで白い鳥だと思っていた卵から、全く予想もしなかった黒い烏が産まれたような驚きがある。そして、こういう驚きが、大好物なんですね、ミステリファンは。予想が外れて怒るどころか、喜ぶのがミステリファンである。私はとても楽しんだ。
受賞当時、なんと作者は驚きの二十歳。執筆や構想はそれよりも早いはずである。登場人物のキャラクタが固まり切っておらず、少しブレがあるように感じるのは早書きだからだろうか。シリーズが展開していき、そこがどう変わっていくのかも楽しみだ。
- 感想投稿日 : 2020年12月3日
- 読了日 : 2020年12月3日
- 本棚登録日 : 2020年12月3日
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