前日島(上) (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2003年11月8日発売)
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感想 : 7

Wikipediaによると「バロック」とは
「16世紀末から17世紀初頭にかけイタリアのローマ、マントヴァ、ヴェネツィア、フィレンツェで誕生し、ヨーロッパの大部分へと急速に広まった美術・文化の様式である。~中略~ 誇張された動き、凝った装飾の多用、強烈な光の対比のような劇的な効果、緊張、時として仰々しいまでの豊饒さや壮大さなどによって特徴づけられる。」
なのだそうである。実際、数行でなんとか言い表そうとするならこんな感じに落ち着くのだろうと思う。しかし、「バロック」という言葉の裏側にあるものを正確に探り出そうとして行くとどういうことになるのか?「前日島」という小説は、その答えの一つとして読むこともできるのではないだろうか。

久しぶりに読み通すのがなかなか大変な小説にかかり、読むのに3週間ぐらいかかった。カザーレの回想のあたりで急に人物関係や地理がよくわからなくなり、久しぶりに紙にメモをとりながら小説を読んだ。しかし、流し読みをしてしまうよりはやはりじっくり取り組むのが面白いことを再確認した。

当時の哲学だったり、~学と呼べるようなものがありとあらゆるところで語られ、本の中で迷宮の様相を呈している。私は昔、この~学と呼ばれるようなもの(例えば地理学とか)はそれぞれを分けて考えることが可能、と思っていたが、柄谷行人さんの「トランスクリティーク」などを読んで出てきた、カントとコペルニクス的転回などといったくだりを読むうちに、もっと総合的な把握、視点が必要なのではないのか、となんとなく思っていたところに、「前日島」を読んだので、ここで出てくる諸学について非常に興味を覚えるのである。

また読みながら思い出していたのは奥泉光さんの小説である。奥泉さんは確かエッセイか何かの中でこの「前日島」を面白い、と言っていたような気がして(いまいち記憶が定かでないので「フーコーの振り子」とかの間違いかもしれないが)話が進むうちに思わぬ場所へ迷い込まされる手法、感覚を、奥泉さんのものを頭に浮かべながら読んでいたような気がする。

「前日島」っていったいなんなんだろうか?いろんなメタファーとして読むことも可能なんだと思う。それから日付変更線って確かにロマンを掻き立てられる気がする。そこから先は「前日」なんですから。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外文学(伊・小説)
感想投稿日 : 2011年9月8日
読了日 : 2011年9月8日
本棚登録日 : 2011年9月8日

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