精霊の守り人 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2007年3月28日発売)
4.22
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本棚登録 : 12458
感想 : 1280
2

うーん? 評判がいいので期待しすぎで読んだのかもしれない。
世界観はしっかりしていると思う。でもしっかり地に足をつけた設定であるがゆえに、翔ぶことができていないのかな…という印象。登場人物はそれぞれにもっともな言い分があって、各々の信念を基軸に行動している。誰も彼もが「いいひと」で、共感の余地がある。だからこそ共感しきれない。単純な勧善懲悪がいいというわけではないけれど、どの立ち位置にも納得のいく言い分が用意されていて、これほどに「悪いひと」がいないと、さすがに少々胡散くささを感じてしまう。…私が素直じゃないからかもしれませんが、用意された信念に従って行動する登場人物群に、覚悟も葛藤も感じられなかった。
描写は素朴で、やや平坦かもしれない。固有名詞がアジア系(非欧米系)を狙いすぎているような? この辺りは完全に好みの問題なので、私の好みではなかったというだけですが。

戦闘シーンが多いけど、迫力はあるのに生々しさに乏しい、かなぁ。傷を負う描写にも痛みを自分自身に投影することはなかった。作者が創作したストーリーのまま、プロットをなぞって怪我をしているように感じられた。

巻末の解説で「母国語で読める」幸運とありましたが…ううーん?(やー、指輪やゲドを引き合いに出してるけど比べるほどにはファンタジーとして追いついていないんじゃ…私、指輪にもゲドにもそこまで思い入れないけれど)

全体を通して深みが足りないのかな…世界の息遣いが感じられない。最初に書いたように読む前から期待が過剰だったのだろう。シリーズ続刊を読むかは現時点では未定。読み進めていけば高評価の理由がわかるかな? と期待を捨てきれず迷っているところ。

(本編には関係ないツッコミだけど、解説、「有象無象の異世界ファンタジーが世界中に溢れた」のはハリポタ以降のことじゃないと思う)
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別の場所で『精霊の守り人』について書いた文章を追加します。参考までに。(2016/10/06)

(前略)
「大人も充分楽しめる児童文学」というフレーズを前もって聞かされていたら、期待するのは正直に「モモ」とか「果てしない物語」レベルだよね…。これは「児童文学だけど大人も楽しめます!」と期待を煽ってしまった売り手側の甘さに責があるのであって当の「精霊の守り人」という物語自体に落ち度があるのではないとは思うんですが。

ただ「精霊の守り人」という物語は、とても精巧につくられた「箱庭」世界のように私には感じられました。
文化人類学という分野を研究する作者が、その知識と経験をつぎこんでつくった、ほぼ完ぺきな「箱庭」世界。
地理、歴史、神話、伝説、人種、民族、気候、風土…。そういった要素を考慮して、現実にありうべき精巧さで創造した世界。
知識と経験をつぎこんでつくりあげたその文句もつけようもない「箱庭」に、登場人物と物語を付与して披露された小説。
登場人物のそれぞれにも背景と価値観、それぞれの正義を用意してあって、精緻に設計された小説。

でも、箱庭、というだけ。
というのが率直な私の感想です。
文句のつけようもない、歴史やら地理やらの背景を用意された世界。学問的には完璧なモデルケースなのかもしれない。
でも箱庭でしかない。
もっと、学問的にはありえない、突拍子もない、理論的には成立しない、奇天烈な、ファンタジー世界設定で描かれた物語でも、もっとずっと圧倒的にこちらを巻き込んで物語られる小説は存在して、私はどっちかといえば、そちらのほうに高評価をつけたい。
小説って結局は虚構です。ファンタジー小説に限らず、小説というものは虚構です。嘘です。たとえ私小説であっても、小説である以上は虚構がある。嘘を物語ることによって、真実を語る。嘘を通して真実を示す。それが小説だと思っています。
どれだけもっともらしい世界を構築できるか、ではない。
そこに築きあげる世界が理屈にかなってるか、あるいは薄っぺらいか、ではない。世界の信憑性は正直なところ、あってもなくてもかまわない。
そこで何を語るか、なのだと思うのです。

世界の重厚さに比べて、「精霊の守り人」という物語で語られる物語は、あまりにもありきたりで薄っぺらい、ように私には見えました。登場人物も、設定が現実的かとかではなく、その人物に真に迫る覚悟が感じられない。
児童文学として子供に薦めるなら、「果てしない物語」のほうを挙げたい。「大泥棒ホッツェンプロッツ」とか「エルマーと竜」とか「ぼくは王様」とか「ドリトル先生」とかね。いかに学問的に整合性のある「世界」か、よりも、たとえ破綻があったとしても生き生きとした「世界」を、躍動する登場人物の笑顔や涙に読みながら巻き込まれる感動を、子供には味わってほしいかな…。
(注・例として挙げた物語には世界設定に破綻があると言ってるわけじゃありません)
(後略)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ありえぬ世界のあるがまま
感想投稿日 : 2016年6月13日
読了日 : 2016年6月12日
本棚登録日 : 2016年6月13日

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