砂漠の青がとける夜

著者 :
  • 集英社 (2015年2月5日発売)
2.73
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本棚登録 : 254
感想 : 36
5

感想をまとめるのがとても難しい小説だった。

第一印象では『甘さ』『愛してる』がキーワードとして沢山描かれていると感じ、小説の中で『甘さ』は感情を表していますがそれは一つの感情だけではないと思いました。

●『甘さ』に関する疑問点
小説の最初の方で、主人公の女性・美月は雑誌編集をするにあたってパンケーキを食べる。しかし、その味を決まった常套句でしか表現できない自分に苛立ち、毎晩角砂糖を食べてしまう「角砂糖現象」が起こってしまう。
パンケーキの特集の仕事が終わるとその現象は消え、美月はバスタブに湯を張って角砂糖を溶かして入る。
その「甘さ」が活き活きと自分の中に根付いていると感じるがその甘さを表す言葉が見つからない。

このバスタブで溶かした「甘さ」はパンケーキの甘さとも角砂糖の甘さとも違うものなのですが、何が違うのかという疑問が残りました。
私が思ったことは、パンケーキ・角砂糖は味覚としての「甘さ」、バスタブで溶かした角砂糖は感情としての「甘さ」だったのかなと思います。

どんな感情としての「甘さ」だったのかは分からないのですが、この後から物語上て感情としての「甘さ」が頻繁に登場するような気がします。


●美月の姉・菜々子の「甘さ」
菜々子は昔付き合っていた男性との間に子供を授かりますが、早期流産しています。
フレンチトーストを食べている時、「姉は子供を産む」と家族に宣言したが、その後に流産してしまうのである。それ以来、姉はチーズケーキを「甘いから、痛いのよ」と甘いものを食べた時「痛い」と言うようになる。

これは、甘いもの(子供・幸せ?)が体内に流れ込んでくるとともに、やがて身体の中から這い出してくるという痛み(流産の苦しみや悲しさ)を思い出してしまうからなのかなと思います。

そうして姉は新しく再開して恋仲にある男性・織田とも付き合わず、中途半端でいる。
私は「甘い」は姉にとって「幸せ」の象徴であるとともに、こどもを産むと決めた幸せな時間と失った時の絶望の二つを思い起こさせるものであったのかな、と感じました。

p.96「私は姉の強さが、残酷さと尊さの両方を孕んでいるように思った」


●「愛してる」の色彩
美月は雑誌編集の仕事を辞めて、姉が経営する喫茶店で働くようになりますが、そこで不思議な男子中学生の「準」と出会います。二人は少しずつ関わりを持つようになり、やがてお互いを好きだと思うようになっていきます。

まず、互いに感じる相手の色について、
美月は「じゅん」という名前の響きから桜が雨に打たれて少しうつむいているピンク色を思い浮かべます。
準は美月を黄色や橙色っぽい感じと言います。

次に愛してるの「色」について
準は人の感情やそれに伴う言葉や色が聞こえたり見えたりしてしまう男の子、そのためこの小説には沢山の感情の色が表現されていますがその中で「ピンク」「黄色や橙色」が描かれている部分を探してみました。

そうして読み返してみると、準が美月をみて感じる色として2つの色が表されていることに気づきます。
一つは、桜みたいな綺麗な靄のお父さんとお母さん。
もう一つは紅葉色のお父さんとお母さん。
両者とも『愛してる』と聞こえるのだと準は話します。

わたしはこの2つの色が『愛してる』象徴だと思うのですが、小説の最後に出てくる『愛してる』は別の色を持っています。
「緑色と青色の『愛してる』が一杯だから」
準のセリフですが、この色はピンクや紅葉色よりも強い意味を持っているような気がします。
ひょっとしたら準と美月が産み出した新しい『愛してる』の色なのかもしれません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年12月17日
読了日 : 2019年12月17日
本棚登録日 : 2019年12月17日

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