砂漠の青がとける夜

著者 :
  • 集英社
2.75
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本棚登録 : 252
感想 : 36
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087715972

作品紹介・あらすじ

東京での不倫関係を唐突に終わらせ、京都で姉のカフェを手伝う美月の前に、不思議な能力を持つ男子中学生が現れて……。繊細な文章表現とみずみずしい感性が光る、第27回小説すばる新人賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 感想をまとめるのがとても難しい小説だった。

    第一印象では『甘さ』『愛してる』がキーワードとして沢山描かれていると感じ、小説の中で『甘さ』は感情を表していますがそれは一つの感情だけではないと思いました。

    ●『甘さ』に関する疑問点
    小説の最初の方で、主人公の女性・美月は雑誌編集をするにあたってパンケーキを食べる。しかし、その味を決まった常套句でしか表現できない自分に苛立ち、毎晩角砂糖を食べてしまう「角砂糖現象」が起こってしまう。
    パンケーキの特集の仕事が終わるとその現象は消え、美月はバスタブに湯を張って角砂糖を溶かして入る。
    その「甘さ」が活き活きと自分の中に根付いていると感じるがその甘さを表す言葉が見つからない。

    このバスタブで溶かした「甘さ」はパンケーキの甘さとも角砂糖の甘さとも違うものなのですが、何が違うのかという疑問が残りました。
    私が思ったことは、パンケーキ・角砂糖は味覚としての「甘さ」、バスタブで溶かした角砂糖は感情としての「甘さ」だったのかなと思います。

    どんな感情としての「甘さ」だったのかは分からないのですが、この後から物語上て感情としての「甘さ」が頻繁に登場するような気がします。


    ●美月の姉・菜々子の「甘さ」
    菜々子は昔付き合っていた男性との間に子供を授かりますが、早期流産しています。
    フレンチトーストを食べている時、「姉は子供を産む」と家族に宣言したが、その後に流産してしまうのである。それ以来、姉はチーズケーキを「甘いから、痛いのよ」と甘いものを食べた時「痛い」と言うようになる。

    これは、甘いもの(子供・幸せ?)が体内に流れ込んでくるとともに、やがて身体の中から這い出してくるという痛み(流産の苦しみや悲しさ)を思い出してしまうからなのかなと思います。

    そうして姉は新しく再開して恋仲にある男性・織田とも付き合わず、中途半端でいる。
    私は「甘い」は姉にとって「幸せ」の象徴であるとともに、こどもを産むと決めた幸せな時間と失った時の絶望の二つを思い起こさせるものであったのかな、と感じました。

    p.96「私は姉の強さが、残酷さと尊さの両方を孕んでいるように思った」


    ●「愛してる」の色彩
    美月は雑誌編集の仕事を辞めて、姉が経営する喫茶店で働くようになりますが、そこで不思議な男子中学生の「準」と出会います。二人は少しずつ関わりを持つようになり、やがてお互いを好きだと思うようになっていきます。

    まず、互いに感じる相手の色について、
    美月は「じゅん」という名前の響きから桜が雨に打たれて少しうつむいているピンク色を思い浮かべます。
    準は美月を黄色や橙色っぽい感じと言います。

    次に愛してるの「色」について
    準は人の感情やそれに伴う言葉や色が聞こえたり見えたりしてしまう男の子、そのためこの小説には沢山の感情の色が表現されていますがその中で「ピンク」「黄色や橙色」が描かれている部分を探してみました。

    そうして読み返してみると、準が美月をみて感じる色として2つの色が表されていることに気づきます。
    一つは、桜みたいな綺麗な靄のお父さんとお母さん。
    もう一つは紅葉色のお父さんとお母さん。
    両者とも『愛してる』と聞こえるのだと準は話します。

    わたしはこの2つの色が『愛してる』象徴だと思うのですが、小説の最後に出てくる『愛してる』は別の色を持っています。
    「緑色と青色の『愛してる』が一杯だから」
    準のセリフですが、この色はピンクや紅葉色よりも強い意味を持っているような気がします。
    ひょっとしたら準と美月が産み出した新しい『愛してる』の色なのかもしれません。

  • 言葉がふわふわと漂う、居心地のいい、けれど時たまキッと苦しくなるような本だった。

    東京での暮らしから離れ、姉と一緒に京都でカフェを営んでいる美月。
    言葉を紡ぐことを仕事にしていた彼女らしく、語り手の描く心象風景が美しい。
    けれど美月自身は、いつも所在無げに漂っている不安定さがある。

    そんなカフェに訪れる、不思議な中学生の男の子。

    そしてかつて流産を経験した姉。

    いびつなのだけど、間接的に表現される分、ストーリーはずっと柔らかく読める。
    美月と準くんがお互いの存在を頼りに、自らの足元を見つめてゆく姿は、見通せなくてもなんだか優しい。
    恋だとか、愛だというハッキリした名前がなくてもいいのだと思う。

    ただ、この物語に、のんびり浸されていたくなった。

  • 月と六ペンスでふと手に取った1冊。出てくる少年の言葉がすごく素敵で、繊細で、でもどこか痛々しいかんじ。この本に対する評価がそんなにされていないのが不思議で、でもこれが評価されてしまうと孤独が絶望に変わってしまう気がするので、この作者は私の隣にいてくれるのだという安心感をいただける場所にしたい。

  • 作者が”空気”感を大事にしているのが良く分かる作品だった。空のペットボトルに空気を詰めるデートは本人達にとっては真剣でロマンティックだったんだろうな。私がどこかに遊びに行って、ペットボトルに空気入れている人がいたらびっくりするけれど(苦笑)

  • すばる文学賞の受賞作。
    広告代理店を辞めてお姉ちゃんがお父さんから引き継いでやっている喫茶店の手伝いをすることにした主人公は、東京を離れる時に不倫相手とも別れていた。まだずっと「愛してる」だけのメールが送られてくるけれど。
    主要な登場人物はお姉ちゃんと中学生のお客の準くんとお姉ちゃんの同級生。
    あの世とこの世を繋ぐような、共感覚の人が見えている世界に近いような、現実とされている場所からは少しずれた視点で描かれています。

  • 難しい
    言葉って繊細

  • 不思議な男の子である。

  • 「誰もいない部屋の卓上ライトの光が、青白さを孕んでゆくように思い、私は無性に寂しくなった」
    東京での不倫関係を唐突に終わらせ京都で姉のカフェを手伝う美月の前に、不思議な能力を持つ男子中学生が現れて…。繊細な文章表現とみずみずしい感性が光る、幻想的な一作。

    【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/
    図書館・請求記号 913.6/N3753

  • 東京で過ごしていた日々を、京都で過ごすようになって思い出す数々のこと。

    東京で雑誌の記者として何十軒のお店を回っていたこと。
    結婚している溝端さんとずるずるとした関係を捨てて
    京都にいる菜々子姉ちゃんのカフェを手伝う日々を送る美月。

    カフェに1人でやってくる中学生の準くん。
    自分に無関心な両親との関係や、
    他人から聞こえてくる不思議な声や雰囲気を感じ取る準くん。
    菜々子姉ちゃんの同級生の世界中を旅してきた織田さん。

    人が集まる場所で、さまざまな声を聞き
    思い出すこと、いろいろ。

    最初からなんとも陰鬱な雰囲気で
    どうなることやらだったけど
    意外と穏やかな方向に行って一安心だったよー。

  • 2015年3月にも読んでいた

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