冬ごもりしていたクマ王国の王さまレオンツィオは、猟師に捕らえられた息子のトニオを探すため、山を降りることにした。いじわるな大公と老魔法使いに翻弄されながらも、サーカスで綱渡りの芸をさせられていたトニオを救いだした王さまは、そのままシチリアの領主となってクマと人を統治することに。だが、人間の悪徳に染まったクマたちのなかに、謀反を企む者がいて……。著者自身による挿絵がかわいい、風刺の効いた児童書。
『モレル谷の奇跡』が大好きなので、他にもブッツァーティの絵が見たいなぁと思い手に取ったら、児童書の皮を被ったコメディタッチの政治風刺小説だった。おじいちゃん魔法使いのなけなしの魔法で息を吹き返した子グマの王子が、13年後に話が飛んだら賭博で破産しそうになってるのエグい(笑)。残忍な大公たちはナチスがシチリアに敷いた傀儡政権、クマたちはパルチザン政権に擬せられているらしい。もっとも、パルチザンもクマたちのように〈山にいるあいだは純粋無垢〉だったわけではないと、今では明らかになってるわけだけど。
クマが堕落していく前の幽霊城でのダンスシーン、そしてトニオ生還の夜のダンスシーン、両者の挿絵が特に好き。幽霊を恐怖するメカニズムの講釈は、戦争から間もない時期の実感だろう。キャラクターのなかでは、敵としてでてきたのに二回しか使えない魔法を結局二回ともクマのために使ってしまうおじいちゃん魔法使いがいい味をだしている。この人も誤認逮捕されたりなかなか酷い目にあう。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
絵本・児童書
- 感想投稿日 : 2022年2月26日
- 読了日 : 2022年2月21日
- 本棚登録日 : 2022年2月23日
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