モダニティと自己アイデンティティ ――後期近代における自己と社会 (ちくま学芸文庫)

  • 筑摩書房 (2021年8月12日発売)
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「再帰的」といい「内的準拠性」といい、社会学プロパー以外には馴染みにくい概念だ。近代は社会も人間も自分自身を反省しながら、繰り返し自らを作り変えていく。伝統社会にはないこの近代特有の性質が「再帰性」であり「内的準拠性」だ。反省は自分に帰ってくるから「再帰的」であり、反省の拠り所は神や伝統といった自分の外にはなく、自分の内にしかないので「内的準拠」なのだ。

道具立ては手が込んでるが、本書はウェーバーが100年前に提起した合理化と意味喪失の問題を、人格(実存)にフォーカスした機能主義的システム論の枠組みで捉え直したものだ。言うまでもなく自由と実存的不安のジレンマは神を殺した近代の難題だ。ギデンズはなお近代への希望を捨てないが、自分らしい「ライフスタイル」の選択にアイデンティティ再建を託すのはあまりに楽観的だ。ギデンズも自覚するように、資本の論理に絡め取られるのがオチだろう。むろん、もはや世界が詰んでしまったという絶望の上に、よりましな世界の可能性の一つとしてならわからぬではない。

その限りにおいて、可能なるオプションとしては「伝統」も捨てたものではない。オプションであるからには「外的準拠点」にはなり得ない。だが分化した抽象的システムがローカルな世界を侵食しようとも、固有な時間と空間のナラティブとしての伝統は「小さな物語」くらいにはなる筈だ。その成否は伝統そのものよりも、伝統を支える人々の共同的な関わり合いにかかっている。これはライフスタイルの場合も同じだろう。本書にそうした視点が希薄なのは残念だ。実存的不安を個人主義的にとらえ過ぎている。

本書でありがたいのは訳者による充実した解題だ。単行本解題では初学者向けに本書の読み方を指南(細部に拘泥せず、ざっくりと4~7章を先に読め)した上で、本書の問題点を手際よく整理してくれる。文庫解題では原著出版以降の世界の変化をふまえて本書の議論の有効性を論じている。いずれも的確でとても参考になる。忙しい人は6、7章と二つの解題を読めばポイントはつかめる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年1月7日
読了日 : 2024年1月7日
本棚登録日 : 2024年1月7日

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