万能鑑定士Qの事件簿 II (角川文庫 ま 26-311)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2010年4月24日発売)
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感想 : 428
4

〇 概要
 マスコミに本物と全く見分けがつかない偽札が送付されたことをきっかけとして,日本を未曾有のハイパーインフレが襲う。日本経済が混乱に瀕する中,凜田莉子は独自に捜査を続ける。果たして,本物と全く見分けがつかない偽札を作り出し,日本経済を混乱に陥れたのは誰なのか。そしてその動機は?万能鑑定士Qシリーズの最初のエピソードの完結編

〇 総合評価 ★★★★☆
 偽札騒動をほったんとするハイパーインフレ騒動がテンポよく描かれている。先が気になって読むのをやめさせない抜群のリーダビリティに,驚きの真相。特に真犯人は,消去法で予想がついてしまうのだが,それでも十分インパクトがある。欠点があるとすれば,解決部分があっさりしすぎている点。「論理の石」からわずか4章で解決に至る。あまり,解決部分を掘り下げると,物語全体の無理が目立ってしまうので,あえてあっさりにしているのかもしれない。
 ハイパーインフレ騒動について,1巻でフラッシュバック的に描き,2巻でもじっくり描かれているだけに,ラストのあっさりさがやや物足りない。その点だけが割引き。
 1と2にわたるエピソードは,欠点があったとしても,読みやすさ,インパクトなどを考えると,万能鑑定士シリーズの開幕にふさわしい傑作といっていいデキだと思う。★4で。

〇 サプライズ ★★★★☆
 偽札騒動の黒幕が,チープグッズの店長であり,万能鑑定士としての凜田莉子を育て上げた師匠ともいえる存在である瀬戸内陸であったという点は,物語全体としてはサプライズがある。ミスディレクションとなる存在がなく,登場人物も少ないので,ミステリとしての解決をフェアに付けるには,この人物くらいしか犯人がいないという消去法で分かってしまうのは残念なところ。その点だけ割引の★4で。

〇 熱中度 ★★★★★
 ハイパーインフレ騒動がテンポよく描かれており,この話をどう収集付けるのか,読み進む手が止まらない。抜群のリーダビリティの作品。この作品に限らず,万能鑑定士Qシリーズはいずれもテンポがよく,読みやすい。文句なしの★5で。

〇 インパクト ★★★★★
 ハイパーインフレ騒動の描写はなかなかにインパクトがある。ひと昔(ふた昔?)前の「日本沈没」などのパニック小説の趣がある。瀬戸内陸が黒幕というオチもインパクトがある。こちらも文句なしの★5でいいだろう。

〇 読後感 ★☆☆☆☆
 悪い。万能鑑定士Qの事件簿の1から始まって2のラスト部分まで,瀬戸内陸は儲けを度外視した理想的な経営主として描かれ,凜田莉子も尊敬する人物として描かれている。それが,ラストの数章で印象が全く変わる。5年前から,日本を大混乱に陥れるハイパーインフレを計画していたとは…。この部分もインパクトにつながるが,読後感は悪い。

〇 キャラクター ★★★★☆
 凜田莉子は魅力的に描かれているし,小笠原,氷室,瀬戸内陸,楓,葉山警部など,登場人物は少なめながら,しっかりと描き分けられている。葉山警部などは,ややステレオタイプの刑事(二課の刑事といえば,こんなイメージという感じ)っぽく描かれており,やや物足りないが,全体的にキャラクター作りはうまい。

〇 希少価値 ☆☆☆☆☆
 人気シリーズ。希少価値はない。

〇 メモ
〇 凜田莉子が,イオナ・フーズの企みを暴きイオナ・フーズが警察で捜査を受ける。
〇 イオナ・フーズの企みが,財務省と公安の捜査であり,国立印刷局工芸館の藤堂俊一の部屋に忍び込むためのものだったことが分かる。
〇 一万円札の偽札が出回っているという脅迫文と偽札が各マスコミに届いたことが報道される。
〇 莉子は,小笠原に頼み,週刊角川の編集部で偽札と脅迫文を確認する。偽札の真贋の見分け方は分からなかったが,脅迫文が沖縄の紙に書かれたものであることを見抜く。莉子は,藤堂の部屋のエアコンの室外機から,藤堂も以前,沖縄に住んでいたのではないかと推理する。
〇 偽札についてマスコミが公表してから2日後の朝,政府がマネタリーベースで20兆円近く日銀が発行していない紙幣があると発表。混乱に拍車がかかる。
〇 莉子は,偽札騒ぎの手掛かりを見つけるために,沖縄に里帰りする。
〇 氷室拓真が,万能鑑定士Qの店を訪れ,鑑定の依頼に来ていた女性の宝くじの科学分析を行う。
〇 莉子,波照間島に戻る。捜査
〇 犯行グループからの映像がニュースで流れる。
〇 莉子,竹富島を捜査→打ち紙を作っている工場だった。
〇 莉子,西表島を捜査。力士シールが作られていたと思われる隠れ家(謝花兄弟)を発見。チープグッズとのつながりを知る。
〇 小笠原の捜査。藤堂の家を見ていた不動産屋を怪しむが空振り
〇 莉子。チープグッズで瀬戸内社長に会う。謝花兄弟を紹介される。力士シールはファットマン・キャラというキャラクターで,チープグッズが宣伝の一環で貼っていたという。
〇 藤堂を指名手配する。藤堂はあっさり出てくるが,犯行には関与していないことが分かる。
〇 万能鑑定士Qの事務所で,莉子,小笠原,氷室が会う。氷室は宝くじの鑑定のことを莉子に伝え,莉子は新聞の方が偽造されていたと見抜く。このことをきっかけとして,偽札事件の真相に気付く。
〇 偽札の真相は,番号部分の偽造。繊維素コーティング(ファンデルワールス結合)。偽札事件の黒幕は,チープグッズの瀬戸内。瀬戸内は,謝花兄弟に番号部分の偽造をさせ,数枚の偽札を作り,マスコミに送付した。政府のマネタリーベース分析の間違いにより,この騒動が起こった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 妻の本
感想投稿日 : 2017年6月25日
読了日 : 2017年6月25日
本棚登録日 : 2017年6月25日

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