〇 トータル ★★★☆☆
読み終わったときは,なかなかの作品と思ったが,時間が経つとさっぱり中身を思い出せなくなってしまった。ミステリとしては,メリハリのある展開ではなく,淡々と進む。その分,個々の登場人物の人間はしっかり掛けている。ミステリとしてメリハリを付けると,人間が描けなくなるので,痛し痒しといったところか。村上海賊の不思議な話を,誘拐事件の真相に掛けているところなど,小説としての完成度は高いと思うが,ミステリとしての完成度はそこまで高くないという感じ。
〇 事件の概要
15年前のゆり子誘拐事件の真相は,ゆり子の母,京子が小野沢一夫を殺害してしまったのを隠蔽するため。小野沢一夫の死体を九十九島に隠す理由を作る(小野沢を誘拐犯に仕立てる)と共に,ゆり子に,怪島を九十九島と誤解させて,アリバイを得た。
15年前の誘拐事件の真相について,ゆり子の叔父である庄吾を犯人だと思わせ,ダミーの真相として,ゆり子の父が犯人と見せた上で,ゆり子の母が真犯人という真相になっている。
〇 サプライズ ★★☆☆☆
15年前に,小野沢一夫を殺害したのが,ヒロイン=ゆり子の父ではなく,母の京子であったという真相は,やや驚かされる。とはいえ,この物語のセールスポイントはサプライズではなく,15年前の誘拐事件のアリバイトリックであり,サプライズ部分はおまけだろう。里見がゆり子に近づいたのは,15年前の小野沢一夫の死の真相を知るため…といったところをうまく料理すれば,もっとサプライズがある作品にできたと思う。驚きより,小説としての完成度を重視したのだと思われる(そういう作風の作家とも言える。)。
〇 熱中度 ★★☆☆☆
ゆり子の視点から描かれる里見との関係の描写と,15年前の事件の捜査は,淡々と描かれており,先が気になって仕方ないという感じではない。全体的にコンパクトであり,冗長ではないので読みやすいが,そこまで入り込める作品ではない。
〇 キャラクター ★★★☆☆
キャラクターというとやや語弊があるが,主人公のゆり子を始め,登場人物の人間はしっかり描かれている。そのため,里見には「裏切られた」と感じさせられる。
〇 読後感 ★★☆☆☆
ゆり子と里見が,結ばれて終わるような展開なら読後感はよかったが,そうならない。里見だけでなく,弘にまで騙された感じなので…。ゆり子は,この後,ますます男性不信,人間不信になるのだろう。読後感は悪い。ただし,里見が生きていたのは救い。ゆり子が里見を殺害してしまい,京子のように人格が崩壊してしまうというラストよりは救いがある。
〇 インパクト ★★★☆☆
人間が描けており,読後感が悪いものの,ヒロインが信頼していた男に騙されるというインパクトがある展開。ただ,里見が生きていたので,少しインパクトが薄れているかな。
〇 希少価値 ★★☆☆☆
絶版にはなっていなさそう。古本屋でもちょくちょく見かけるので,少なくとも現時点では,手に入らないことはない。電子書籍版はなさそう。
- 感想投稿日 : 2016年8月6日
- 読了日 : 2016年8月6日
- 本棚登録日 : 2016年8月6日
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