紅い花 他4篇 改版 (岩波文庫 赤 621-1)

  • 岩波書店 (2006年11月16日発売)
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感想 : 27
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「紅い花」
■何日の間も一睡だにせず、ただ叫びながら病棟を練り歩くだけの一人の狂人。しかしそんな彼の内では密かに不倶戴天の敵、罌粟の花との闘いに臨む決死の覚悟が固まっていたのだった……。
■瘋癲病院内の様子と狂人の心中の書きっぷりはさすが。作者は実際を知っているからこそ描けたのだろうが、調子に乗って必要のないところまで書きすぎてもいない。説得力があって必要十分な描写だ。
■最後の悲劇的な死を通じて、この狂人がたまらなく愛おしく感じられる。一般読者はこの頭のイカレた男こそ、私たちの父母、あるいは子供たち、そして我々自身のことだということに果たして気づいているのだろうか?

「四日間」
■露土戦争の従軍兵士の手記。
■自らは脚を負傷してピクリとも動けず独りむなしく死を待つだけ。そばには自分が銃剣で刺し殺した敵兵の死体が横たわり見るたびごとに腐敗の度を増していく……。
■『紅い花』もそうなのだがこの地獄、経験者でないと到底描けまい。映画『SAW』より強烈。

「信号」
■これも素晴らしい短編、あいわらず臨場感があるなぁ。
■隣の駅の、住み込みの線路番という男が、根が短気で、ルサンチマンが募っていて、しかも本人はそれを正義感と勘違いしていて……。このキャラ設定で悲劇が起きないわけがない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 外国文学
感想投稿日 : 2020年10月4日
読了日 : 2020年10月4日
本棚登録日 : 2020年10月4日

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