ぶるうらんど - 横尾忠則幻想小説集 (中公文庫 よ 48-1)

著者 :
  • 中央公論新社 (2013年8月23日発売)
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感想 : 7
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横尾忠則といえばやはり画家あるいはグラフィックデザイナーのイメージのほうが強いですが、小説もなかなか面白かったです。もともと画家として好きで、もう10年くらい前になっちゃいますが現代美術館だったかでやった美術展も見に行ったりしていたので、インドだの滝だの天使だのスピリチュアルな方向にかぶれていらしたのもなんとなく覚えているし(笑)、天井桟敷や状況劇場や土方巽の公演ポスターのデザインも好きだったし、あと三島由紀夫だけで1コーナーできるほど肖像画を描かれてたり、ざっくり画家としての背景を知っていた分、この小説世界にも入りやすかったのかなと。表紙がベックリンの「死の島」なのもいいですね(もちろん装丁は横尾忠則自身がデザイン)。

表題作は4つの短編からなる連作集。「ぶるうらんど」とは、ざっくり言ってしまうと「死後の世界」のこと。あの世で妻と再会した作家の男が、生前と変わりなく小説を書きながら妻と暮らしているけれど、妻のほうはさっさと次のステージに進んでしまい(天国にも階層があるらしい)、残された夫のほうはまあそれなりにアバンチュールを楽しんだり、また妻と再会したり、結構あの世ライフは楽しそう。

後半の3つの短編は、「ポルト・リガトの館」がスペイン、「パンタナールへの道」はブラジル、「スリナガルの蛇」はインドがそれぞれ舞台になっていて、フィクションだけれど、後半2作は旅行記としてもちょっと面白い。

個人的なお気に入りは「ポルト・リガトの館」で、これはダリの家のこと。主人公は職業も名前も作者自身の分身と思われる画家の唯典(ただのり)。ダリを訪ねて面会を依頼するも、3時間も待たされたあげくダリの態度が最悪だった・・・という実体験がよほどトラウマだったのか(苦笑)、それを昇華するべく書かれたもののようです。小説の中のダリは結構饒舌で自分のことを現代日本のギャルのように「ダリは~」とか名前で話す変なおじさん(笑)。しかし実は、自分が死んでいることにさえ気づいていないというシュールな展開。

終盤には「ただのり」のすでに死んだ友人たち(三島、寺山、澁澤各氏から柴田練三郎まで)が迎えにやってきて、みんなで青い山脈を歌いながらパレードのように旅立ちます。「ぶるうらんど」にも通じる作者の死後の世界観ですが、こういう世界が待っているなら、死ぬのもそんなに怖くないかも。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  >やらわ行
感想投稿日 : 2013年9月2日
読了日 : 2013年8月31日
本棚登録日 : 2013年8月23日

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