愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫 フ 1-1)

  • 早川書房 (2002年8月1日発売)
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本棚登録 : 1089
感想 : 80
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個人的にいちばん好きなブローティガン作品は「西瓜糖の日々」なのですが、ああいうファンタスティックな要素を期待していると、後半で若干裏切られたような気持ちになってしまいました。ブローティガン自身の中で、何かが変わった時期だったのでしょうか?ピストル自殺にまつわるエピソードなど、最後に高橋源一郎の解説を読むと物悲しくなってきます。

主人公は、年中無休24時間営業の風変りな図書館で働く青年。この図書館、普通の本ではなく、作家でもなんでもない市井の人々(子供から老人まで)が、世界にたった1冊しかない自分で書いた本を持ち込んできて、それを所蔵するという世にも奇妙な図書館で、前半、その図書館に収められた本を紹介するくだりなんかはとても面白かったし、素敵な設定だとわくわくしました。

しかし、そんなお客の中の一人、あまりにもナイスバデーで美人すぎて生き辛いヴァイダという女性が現れて恋人になってから、物語の主題は一変。彼女が妊娠し、二人は堕胎のための旅に出る。

非現実的でファンタスティックな図書館の設定とうらはらに、このうえなく生々しく現実的な堕胎という行為。結果、図書館に戻ってきたときにすでに彼らの居場所はなく、外の世界で彼らは生きていくことになるわけですが・・・

それを、引きこもり青年が現実と対峙し外の世界へ出てゆくポジティブな結末、と捉えることも可能なのだけれど、はたして、あれほど自分の外見に生き辛さを覚えていたヴァイダがトップレスバーで生活費を稼ぐ現実というのは、本当に幸福なのか自分にはわからない。あの図書館に閉じこもっていたほうが幸せだったのに・・・と思ってしまう自分はまだまだ現実逃避的で体内回帰願望的なものから抜け出しきれない中2病なのでしょうか。

生まれるはずの赤ん坊を殺す堕胎、という行為が彼らを外の世界へ生み出すことになるというこの皮肉。私には受け止めきれませんでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ★アメリカ 他
感想投稿日 : 2014年9月18日
読了日 : 2014年9月17日
本棚登録日 : 2014年9月15日

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