22編の短編集。ミステリーっぽいもの、ホラーっぽいものもあるけれど、どちらかというと何気ない普通の生活(親子関係やご近所づきあいなど)の中で、なんかモヤモヤ不穏、というもののほうが多かった気がする。共通点はとにかく「後味が悪い」こと。そしてやたらと「ハリス」という名前の人がちょい役で出てくるなあと思っていたら後書き読んで納得。エピローグに引用されている詩のタイトルに「ジェームズ・ハリス」の名が入っており、ハリスのみならずそういえばジムだのジミーだのという人物もやたらと登場したっけ。
個人的な好みは、単に大人が面倒くさい変人な系統のものよりは、わかりやすく悪魔的なものが関与しているもの。「魔性の恋人」(原題はThe Daemon Lover)は結婚の日に現れない恋人を探し回る女性の話だけど、これは恋人が魔性の悪い男だったというよりは、この女性のほうが狂っていて毎朝目覚めるたびに「今日こそ結婚式!」と思い込み続けて十数年とかの可能性もあってその想像のほうが怖い。短いけれど邪悪な「魔女」や、歯を抜くだけでアイデンティティを失ってしまう女性の「歯」、そしてやはり表題作の「くじ」の得体の知れなさにはぞっとする。
※収録作品
酔い痴れて/魔性の恋人/おふくろの味/決闘裁判/ヴィレッジの住人/魔女/背教者/どうぞお先に、アルフォンズ殿/チャールズ/麻服の午後/ドロシーと祖母と水兵たち/対話/伝統あるりっぱな事務所/人形と腹話術師/曖昧の七つの型/アイルランドにきて踊れ/もちろん/塩の柱/大きな靴の男たち/歯/ジミーからの手紙/くじ
- 感想投稿日 : 2016年10月26日
- 読了日 : 2016年10月25日
- 本棚登録日 : 2016年10月24日
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