シャーロック・ホームズの回想 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

  • 光文社 (2006年4月12日発売)
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感想 : 54
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4冊目(私は発表順で読んでいる)のホームズも短編集。解説によると最初の長編2作(緋色の研究、四つの署名)はそれほどパッとしなかったが、3冊目の~冒険(短編連載)で人気が出たため、この4冊目収録作の連載となった模様。しかしコナン・ドイルは他の作品も書きたいのにホームズばっかり飽きたんじゃボケーというジャンプの人気漫画連載終わらせてもらえない状態にへきえきしたのか、最後の作品でホームズを殺すという暴挙に出ます(苦笑)

それが有名な「最後の事件」。ロンドンにはびこる悪の元凶モリアーティ教授が初登場。そして初登場にして最大のライバルとしてホームズと滝壺心中。映画やなんかだとモリアーティ教授はホームズの宿敵として何作にもわたり登場し、最後の最後で一騎打ち…となるイメージだったけれど、書かれた順=物語の中の時系列順ではないため、他のモリアーティ登場作品は本作より後に書かれたものだったんですね。

そして本作で死んだと思われたホームズ、実は生きていて戻ってくるのは周知の事実ですし、作品自体はワトスン君がホームズが手掛けた事件をランダムに発表しているという形式なので、結局この「最後の事件」以降もホームズ作品は続いていったわけですが…。

その他、注目すべき作品は、ホームズがカレッジ時代に手掛けた、探偵となるきっかけになる事件「グロリア・スコット号」や、ホームズ兄マイクロフトが初登場する「ギリシャ語通訳」など。「ボール箱」は、切り取られた耳が二つ(それぞれ別人のもの)ある婦人に送り付けられてくるという猟奇的な事件で、真相も愛憎もの、意外とこの手の作品はレアな気がする。

「名馬シルヴァー・ブレイズ」は調教師が殺され競走馬が誘拐(?)される事件、「マスグレイヴ家の儀式書」はちょっとした暗号もの、「黄色い顔」は犬も食わない夫婦げんかの顛末である意味ほのぼのだけれど私がこの旦那なら奥さんを許せないかもと思ったり。

事件の動機は概ね復讐や金目当ての裏切りなどですが、それでもバラエティに富んでいる気がするのは、解決の仕方がさまざまで、すっきりなぞ解きされるものもあれば、結局被害者が助からないものもあったりして、ありがちなオチにならないところがいいですね。あとはヴィクトリア朝ロンドンの紳士の持ち物や乗り物、ファッションなどの細部が楽しい。

※収録
名馬シルヴァー・ブレイズ/ボール箱/黄色い顔/株式仲買店員/グロリア・スコット号/マスグレイヴ家の儀式書/ライゲイトの大地主/背中の曲がった男/入院患者/ギリシャ語通訳/海軍条約文書/最後の事件

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ★イギリス・アイルランド
感想投稿日 : 2023年4月21日
読了日 : 2023年4月20日
本棚登録日 : 2023年4月15日

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