表題作は鈴木清順の映画『ツィゴイネルワイゼン』の原作にもなった短編小説。映画を先に観ているので、どうしても中砂さんの顔が原田芳雄で浮かんでしまいます(苦笑)。
余談ですが三島の解説がとても面白かった。百間の作品ってカテゴライズが難しいのではないかと思うのです。これって何なんだろうっていつも思います。例えば泉鏡花みたいに、背景や設定や登場人物やエピソードのどれをとっても「幻想的」としか呼びようのないものだとわかりやすいのですが、百間の書くものはものすごく日常的で、鏡花的耽美さから一番遠いところにありながら、紛れもなく現実よりは幻想の世界に近いところにある。その現実と非現実の境目というか、日常生活の中にふいに紛れ込む非日常的な光景というか、現実だと思い込んでいた世界がいつのまにか非現実のほうへシフトしていたその瞬間とか、その感覚をどう言い表していいものかわからないというのが正確なのかもしれません。しかも、それを登場人物自身は異常だと自覚していない、当たり前だとのように普通に受け止めているところが、眠っているあいだに見ている夢のような感触を読み手に与えるのだと思います。鮮やかな手腕だなあ…。憧れの文体です。
「東京日記」「桃葉」「断章」「南山寿」「菊の雨」「柳検校の小閑」「葉蘭」「雲の脚」「枇杷の葉」「サラサーテの盤」「ゆうべの雲」「由比駅」「すきま風」「東海道刈谷駅」「神楽坂の虎」(解説:松浦寿輝/三島由紀夫)
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
>あ~う
- 感想投稿日 : 2013年1月31日
- 読了日 : 2003年8月
- 本棚登録日 : 2012年8月1日
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