1作をのぞいて70年代&80年代に書かれた短編集。ジャンルはさまざまなのだけれど、どれもゾクっとする面白さがありました。
精神病院を舞台にした書簡小説の「火焔樹の下で」は、夢野久作風というかドグラマグラ的なモチーフで、おどろおどろしい怖さ。隣室をのぞくことにはまってしまった女性の「密室遊戯」は、乱歩ぽかったりして、古き良き昭和の怪奇ミステリぽいところがこの2作はお気に入り。
「卵」と「黒蝶」は、この作者お得意の役者ものですが、「卵」のほうはいささかラストは難解ながら、「黒蝶」はわかりやすく同性愛のにおいがします。
「魔女」「滝姫」「坩堝」はどれも年上女性の、年下の男性に対する執念が怖い。「魔女」は構成も凝っているし、なんてことない普通の女性が皆魔女のような一面を持っていることにぞっとさせられ、逆に「滝姫」のほうは不幸な死を遂げた女性の呪いを感じさせられる伝奇的な怖さ。「泣く椅子」は、妹夫婦に寄生する姉視点の話ですが、自分が正義だと信じてる人の盲目的な狂気のタチの悪さがたまらない。
表題作はタイトル同様内容にも奇妙なインパクトがあり、怖いというよりはじわじわと悪寒がしてくる感じ。「バックミラー」は「火種をコルタサール及びバルガス・リョサより得ている」と作者コメントがあり、元ネタ気になりました。
個人的に一番お気に入りだったのは唯一90年代作品の「ゆびきり」。泉鏡花っぽいノスタルジックな幻想性と女性の侠気(狂気ではなく)が描かれていて、掌編ながらあざやかでした。
※収録作品
「卵」「血浴み」「指」「黒蝶」「密室遊戯」「坩堝」「サイレント・ナイト」「魔女」「緑金譜」「滝姫」「ゆびきり」「鳥少年」「泣く椅子」「バック・ミラー」「沼」
- 感想投稿日 : 2013年10月28日
- 読了日 : 2013年10月27日
- 本棚登録日 : 2013年10月21日
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