曙光の街 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋 (2005年9月2日発売)
3.59
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本棚登録 : 711
感想 : 72
3

倉島、兵藤、ヴィクトルの3人の視点で物語が進むこの構成はおもしろいですね。読者はすべての事情を把握している、だけど各登場人物は相手のことを完全にはわかっていない、という情報の非対称性ゆえのおもしろさとでもいえばよいでしょうか。

特にヴィクトルは自身が思っている以上にすでに捜査の手が伸びているわけで、そのことに本人が気付いていないときには「いやいやい、気付かれているよ」と思わずツッコミたくなってしまいます。

ただ、本作では暴力シーンが多く、またとてもリアルな描写で相手を痛めつける内容になっている点は好みがわかれるところでしょう。個人的には痛めつけられる相手の痛みやそのときの心情、絶望感を想像してしまって、どうも居心地が悪くなってしまいますね。

各視点の持ち主3人それぞれは仕事や現在の境遇に仕方なく甘んじている、でも本作の事件を通して心に火が付いたり、新しい人生を歩んだりと、ラストでは心機一転という結末を迎える”明るさ”が暴力シーンとは対照的な本作の救いのように思えました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年2月24日
読了日 : 2021年2月22日
本棚登録日 : 2021年2月21日

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